『再びの夏』 第六章
FC2 R18官能小説
(六)
真夏に珍しく熱風が舞った。
ざわっと木々が騒ぎ、地面を点々とてらす木漏れ日が揺れた。
(でも・・・)
由紀子は自分を戒めながらも、堪えようのない不安と心のざわめきを感じた。
突然、砂場で遊んでいた英夫が、甲高い声を出した。
「ママ、お兄ちゃんだ」
英夫は砂遊びの玩具を投げ捨て、突然現れた人影にじゃれついた。
近所に住む大島邦彦だった。
その年東京の私立大学に入学した邦彦は、実家を離れて一人暮らしをしていると聞いた。
子供が好きで、大学でも人形劇や影絵をするサークルに入っているらしい。
遊戯で子供をあやすのが上手く、公園で何度か顔を合わせるうちに、英夫に手遊びを教えてくれるようになった。
由紀子はベンチから立ち上がり、
「こら英夫、しつこくしたら、お兄ちゃんに迷惑よ」と、邦彦のズボンをつかんで離さない英夫を叱った。
邦彦は由紀子に軽く会釈した。
「いえ、暇ですから構いませんよ」
邦彦は英夫をベンチに座らせると、簡単な手遊びゲームを始めた。
間に英夫を挟んで座った由紀子は、まだ顔見知り程度の邦彦を相手に、一人ぼっちの寂しさを晴らした。
「お盆休みなのに、実家には帰らないの?」
「サークルの合宿が昨日まであったので、来週帰ろうと思っています」
「そうか、八月はずっとお休みなんだ。学生さんは楽でいいわねえ」
「ん?でも奥さんも、ずっと昔は学生さんだったわけですから、順送りで・・・」
「まあ、ずっと昔ですって?失礼ね。私はまだ二十九歳よ」
冗談めかして由紀子が怒ると、邦彦は大袈裟な素振りでペコペコ謝って見せた。
つづく…






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