『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十四)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(十四)
定住生活が軌道に乗った寛三の率いる集落に、近隣の貧しいサンカの家族が頼って移住してくるようになった。
こうして山奥のサンカ集落は、徐々に大きくなって三十戸ほどにまで増えていった。
寛三は四十代前半。
部落の長として精力的に活動する寛三が、いつまでも独り身でいられる道理もない。
寛三は同じ集落に住む三十路過ぎの後家と再婚した。少女のことを忘れたわけではなかったが、独り身の不便さと女の不憫さに堪えかねた結果だった。
ところが集落に活気が戻った頃、突然少女が大阪から戻って来たのだ。
少女の名は藤野タエ。
昭和五十年、再び寛三の前に現れた少女は三十四歳になっていた。
当時、オイルショックに端を発した狂乱物価が、長年続いてきた高度経済成長を終焉させた。
景気の悪化により消費は停滞し、大都市の歓楽街もその煽りを受けた。
男に騙されて荒んだ生活を送っていたタエは、働く場所と気力を失っていた。
体を売るにも三十代半ばでは、熟女ブームの今と違って猫も跨ぐ乳母桜である。
タエを頼って大阪へ出た家族も一家離散した。アル中になった父、その暴力に逃げ出した母、そしてヤクザに成り果てた弟。
タエは生きる希望を失った。
故郷の山野へ戻りたいと願った。
二年前、父の死を知らせる便りを交わした寛三を頼って、やっとのことで故郷の箕面谷へと戻って来たのだった。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト