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心の闇⑥ 泪橋(その1)…降矢木士朗

心の闇⑥ 泪橋(その1)…降矢木士朗
FC2 R18官能小説

東京スカイツリーが落成して話題になっています。
早速月絵が雑誌を持って話しかけてきました。

「降矢木先生、スカイツリーは予約制ですが、その下にできた東京ソラマチはいろんなお店が集まって楽しいらしいですよ」

「・・この間、君に渋谷ヒカリエへ連れて行かれて酷い目に遭ったばかりじゃないか」

人混みに弱い私は、足の踏み場もないほどごった返すヒカリエで気を失いそうになったのです。

「大丈夫ですよ。じゃあ明日の土曜日、桜木町の駅で待ち合わせね」

そう一方的に言うと、仕事を終えた月絵はUSファーマシーから足早に帰って行きました。

女は恐ろしい生き物です。
確かに私は月絵の乳房を偶然にも何度か見てしまいました。
普通ならばそれを恥じるのでしょうが、月絵は開き直って、処女の乳房を見たのだから責任を取れと言わんばかりの態度です

すっかり恋人気取りの月絵に圧倒された私は、翌日渋々荷物持ちさながら東京へ向かいました。
上野駅に着いて銀座線で浅草へ向かおうとした時、不意に月絵がスマホを見て言いました。

「あら、スカイツリーは今日二十万人を越える人出ですって」

「えっ、あそこは東武鉄道の狭い貨物駅跡地だよ。そんなに密集したら圧死する人が出るぞ」

「でも・・」

「僕は絶対に行かない。行ったら人混みで気が狂うに決まっている」

私が必死に抵抗すると、さすがに月絵も諦めたようでした。

「それなら先生、これから何処へ行きますか?」

「う~ん・・おっ、そうだ、三河島へ行ってみようじゃないか」

たまたま常磐線の路線図が目に入った私は、上野から二駅目の三河島と言う駅名に、死者160人を出した『三河島事故』を思い出したのでした。

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心の闇⑥ 泪橋(その2)…降矢木士朗

心の闇⑥ 泪橋(その2)…降矢木士朗
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心の闇⑥ 泪橋(その2)  降矢木士朗

『三河島事故』は、昭和三十七年に起きた二重列車衝突事故です。
死者160人、負傷者300人という痛ましい数の被害者が出て、それ以降自動列車停止装置(ATS)が急ぎ設置されたといいます。

その日の三河島駅は、そんな事故が起きた過去を微塵も感じさせず、高架のホームに爽やかな風が吹き渡っていました。
月絵がホームから見える建物を指さしました。

「あんなところに可愛い教会がありますよ」

街の教会と焼肉店の多さから、私はこの街の素性を感じとっていました。
キリスト教会がある場所は、かつてす貧しい街だったことが多いのです。

何を隠そう私が生まれ育った家の近くにも小さな教会がありました。
そこは港湾労働者が居住するスラム街でした。

若い人にはわからないかもしれませんが、街には歴史があるのです。
その散りばめられた破片を見つけるところに、街探索の楽しさがあるのかもしれません。

さて月絵と私は三河島から日暮里方面へ歩きました。
スカイツリーが古い民家の狭間から見え隠れします。

「先生、スカイツリーですよ・・・でも何か不思議な感じがします」

「そうかな?」

月絵は三河島から見えるスカイツリーに違和感を覚えているようですが、それが何かにまだ気づいていないようでした。

肉関係の店が多いことを確認しながら、私達は日暮里の繊維街を歩きました。
浅草の近辺には、昔から同じ職業の人々が街をつくっているのです。

合羽橋もそうですし、皮革店が集中しているところもあります。
そんなことを考えながら、旅を終えて日暮里駅から帰ろうとした時です。

「先生、あれ!」

月絵が指差したのは、都営バスの運行経路板でした。

「泪橋って書いてありますよ。『明日のジョー』に出てくる泪橋じゃないですか?」

日暮里発亀戸行きのバスです。

「・・ああ、泪橋ってこんなところにあったのか・・」

誰もが漫画で知っているあの景色・・確かに時代は違えど実物を見たことはありませんでした。

「私、行ってみたい。先生、バスに乗りましょう」

張りきった月絵は、途惑う私の手を引いて強引にバスへ誘いました。

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心の闇⑥ 泪橋(その3)…降矢木士朗

心の闇⑥ 泪橋(その3)…降矢木士朗
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汚れたドブ川に架かるボロボロの橋・・
その橋を渡った対岸には朽ち果てたようなバラックが密集している。
薄汚れた服で青っ洟を垂らした子供達がチャンバラごっこをして遊び、汗臭いランニング姿の男達が昼間から酒に酔い潰れている。

ところが初期アニメ『明日のジョー』からイメージする泪橋は、バスを降りてもどこにもありませんでした。
月絵は交通量が多い明治通りを見渡して言いました。

「ドブ川なんか流れていないし、変哲もない普通の街ですね」

「・・いや、そうでもないな」

私は月絵を連れて一歩裏通りに足を踏み入れてみました。
そこは数え切れないほど簡易宿所が建ち並ぶ別世界でした。

ドヤ街のドヤは、宿(ヤド)をひっくり返したのが語源と言われています。
ならばここはやはり現代版ドヤ街に間違いありません。

「先生・・横浜の寿町に似ていますね」

月絵はキョロキョロと街を見回しています。

「うん、地名は清川だか、ここは関西のあいりん地区と並ぶ有名なドヤ街、山谷だからね」

「あ、ここが山谷なんですか・・」

そう言うと、月絵はちょっと緊張した表情をしました。
概ね一泊二千円ぐらいでしょうか、「冷暖房完備・カラーテレビ」と書かれている宿屋が多く見られます。

そしてあちこちに何故かコインロッカーが置かれているのが不思議です。
街で時折見かける労働者は老人ばかりで、血気盛んだった山谷も高齢化の波が押し寄せているのだと実感させられました。
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心の闇⑥ 泪橋(その4)…降矢木士朗

心の闇⑥ 泪橋(その4)…降矢木士朗
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道路までテーブルと椅子が食み出した安酒屋がありました。
十人ばかりの労働者が昼間から酒を呑んで騒いでいます。

その中に紅一点、四十過ぎらしき女性が一人混じって呑んでいました。
化粧はしていませんが酒焼けした声で、水商売上りのような男好きする頽廃的な雰囲気を持っています。

しかしどこかうらぶれて薄汚れた容貌から、彼女がこの街の住人であることは間違いなさそうです。
信号を待つふりをして彼女を見ていた月絵が呟きました。

「先生、彼女は幸せなんですよね?」

「ああ、皆で酒を呑んで笑っているじゃないか」

おそらくこの街まで落ちてきたのでしょう。
そして見栄やプライドを捨てて、生涯この街で暮らしていく決心をしたのかもしれません。

否、金や地位のある男達を相手にしてきた彼女は、ただ一生懸命生きているだけの男達の中で、安らぎに満ちた終の棲家を見つけたのかもしれません。

心から笑えること・・それを単純に幸せと定義してもいいならば、今の彼女は輝くほど幸せだと言えるのではないでしょうか。

しばらくドヤ街を月絵と歩いていると、巨大なアーケイドが見えてきました。
『いろは会商店街』です。

構えは立派ですが、八割近い店がシャッターを閉めています。
客の姿はほとんどなく、山谷の労働者がぶらぶらと歩いているだけです。

「あ、『明日のジョー』ですよ」

月絵が言う通り、商店街には『明日のジョー』のポスターなどが至る所に貼られています。

「いくら矢吹ジョーでも、この商店街は活性化できないだろうなあ」

『明日のジョー』の人気にあやかろうとしても、決して観光客が好んで訪れる環境ではありません。

またここの住人は、ジョーと同じく、食い潰して山谷へ流れて来た者ばかりなのです。
何とも皮肉のような話です。
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心の闇⑥ 泪橋(その5)…降矢木士朗

心の闇⑥ 泪橋(その5)…降矢木士朗
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『いろは会商店街』から浅草方面へ向かう途中に吉原があります。
当時の名残りは吉原大門と見返り柳ぐらいで、江戸で一番の盛り場はただの寂れたソープ街になっていました。
月絵は歩きながら暗い表情を見せました。

「先生、ドヤ街とソープ街・・ここは昔から悪所だったんですね」

「ああ、横浜の大岡川と同じだよ。ドヤ街の寿町と伊勢佐木町裏の風俗街。いわゆる悪所は寄り合うんだ。自然発生的にか人為的にか・・」

「掃き溜めなんでしょうか?」

「そう、忌み嫌われるものは辺境に掃き散らかされるんだ」

例えば上野の北にある谷中墓地は、当時は江戸の辺境に位置していました。
日暮里なども、地名の通り、江戸市中の外にある寒村だったと思われます。

かつての悪所は江戸を取り巻くように存在しました。
吉原の他にも、品川、新宿などの辺境に遊郭がありました。刑場も小塚原、鈴ヶ森、板橋にありました。
月絵は笑みを浮かべてドヤ街を見渡しました。

「私は・・悪所の女です」

「僕もだよ」

いきなり月絵は腕を組んできました。

「先生、スカイツリーですよ」

軒を連ねる簡易宿所の向こうに堂々たるスカイツリーが見えます。
スカイツリーがある業平とて、じめじめした貧乏長屋が密集していたところです。
それはまるで、貧しくして死んでいった、無名の、無数の、墓標であるかのように私には見えました。

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
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日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
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