『姦 計』 第一章
妻の綾子を前に無用に委縮していた肉茎が、
嘘のように、激しく脈動している―
片倉は異常な性の興奮には逆らえなかった。
『姦 計』
FC2 Blog Ranking
(一)
横浜港に臨む丘の上の高層マンション。
窓からは星屑を撒いたような港の夜景が一望できる。
ベッドサイドに置かれたインテリア・ライトだけが燈る仄暗い寝室で、片倉健太郎は一人ブランデーを傾けていた。
時計の針はすでに十二時を回っている。
しかしいくら酒の力を借りても、なかなか神政の昂ぶりは静まらなかった。
「いよいよ正念場だ…」
片倉は自分に言い聞かせるように、一人低い声で呟いた。
今夜、片倉は上司の安倍支社長に、小料理屋へ誘われた。
二人きりの会食だった。
その席上、安倍は自分が十月に本社営業部へ異動することを漏らした。
そして、次の支社長の候補として、片倉の名前も上がっていることを教えてくれた。
片倉は中堅製薬会社の横浜支社に勤務している
横浜支社の営業エリアは神奈川県全域の病院と開業医で、総勢二十名の営業人員を擁していた。
組織は支社長の下、横浜市北部と川崎市を担当する営業一課、横浜市南部から湘南・横須賀を担当する二課、厚木市から以西を担当する三課に分かれている。
片倉はまだ四十歳の若さながら、部下八人を率いる営業一課の課長職を任されていた。
名門薬科大学を卒業した片倉は入社後、営業部に配属となり着々と実績を積み上げ、同期との出世競争の先頭に立ってきた。
若くして課長の地位をつかんだ片倉は、当然次の目標である支社長の椅子を視野に入れていた。
製薬会社の営業は医薬情報担当者、略称でMR(メディカル・リプリゼンティティヴ)と呼ばれている。
人の命に関わる医薬品を販売するには、医者への専門的な情報提供が欠かせない。
そのため薬学は勿論、医学についても、医者とディスカッションできるレベルの知識が要求される。
近年、遺伝子研究を始め、日々進歩を続ける医療分野にあっては、MRもかなりの知識取得がなければ務まらない。
結果、次第に中高年は淘汰され、MRの若年化が進んだ。
若いMRたちを指導統率するには、若いリーダーが好ましい。
また会社も医者から学術的に信頼される実践的マネージャー育成を急いでいる。
そこで業績の良いこの横浜支社から、会社は四十歳前後の支社長を試験的に誕生させる方針らしい、と安倍は語った。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る