『姦 計』 第九章
『姦 計』
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(九)
片倉はそれらの裏付けを基に、綿密な姦計を練り上げていた。
松村は顔を曇らせて頭を掻いた。
「でも片倉さん、離婚寸前の人妻はまずいですよ。そういう女性は夫と別れるから結婚しろとか、結構後腐れがあるんですよ」
「それは大丈夫だ。夫の梅野という男は、たとえ妻が浮気したとしても、離婚には応じないだろう」
片倉は自分に立場を置き換えてそう考えていた。
梅野も片倉同様、出世の命取りになるような家庭内の不和は、自分が犠牲になっても公にできないだろう。
「ふうん…でも片倉さんはその女に不倫させて、何か得があるんですか?」
その松村の質問を片倉は予期していた。
「うん、実は松ちゃんの病院へ部下と同行した時、その女を見かけて熱を上げていたんだよ。その後何度か口説いたんだけど、手ひどくふられてね」
片倉はいかにも真実らしく、悔しそうな顔で抜け抜けと語った。
「へえ、プライベートで?」
「ああ、勝気な女だから強烈な肘鉄さ。他人の妻を口説くとは何事かってね。そこまで言うのなら、松ちゃんに口説かれてる貞操が守れるのか、実験したいと思ってさ」
「なるほど」
「それで松ちゃんが女を手懐けた段階で、浮気の現場写真を撮ってもらいたいんだよ。思いっきり卑猥な写真をね。そうしたらそれを僕が譲り受けて、夫にばらされたくなければ言うことを聞けと…」
「ひゃあ、片倉さんも悪人だな」
松村は片倉の姦計に興が乗ってきたようだった。
片倉も非情な悪巧みだと思った。
しかし相手の弱点を攻めるのは勝負の鉄則だ。
片倉は友紀の淫らな写真を手に入れ、人事部に匿名で送ろうと考えていた。
妻のスキャンダルを抱えた男を、人事部が支社長に抜擢するはずがない。
破綻した夫婦の陥穽をついた巧妙な作戦だ。
片倉は松村の鼻先に人参をぶら下げておくことを忘れなかった。
「もしこの計画が成功したら、勿論報酬を出させてもらうよ」
「報酬?」
松村の目が輝いた。
「女を手懐けるための工作費を含めて、松ちゃんの飲み食いの金を百万円まで、うちの会社の交際費で落としてあげるよ」
「百万円?」
所詮小物の松村が百万円で動揺しているのは、その目の落ち着きない動きからすぐにわかった。
しかしここはもう一手、おだて上げるのがベストだ。
「頼む、報酬には不満だろうが、これは君にしか頼めないことなんだ」
松村は緩む頬を必死に引き締めようとしているのがまる分かりの顔で、尊大ぶって頷いた。
「ううむ、難しいかもしれないけど協力しましょう」
「有難う」
片倉は両手で松村の手を握った。
こうして片倉の姦計は役者を揃えて幕を開けた。
成功するか失敗するかは松村の働き次第だが、浮気慣れした友紀を落とすのは、それほど難しくないはずだ。
片倉は自分が支社長に昇格した時、梅野をどう処分するかを考え始めていた。
つづく…
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片倉はそれらの裏付けを基に、綿密な姦計を練り上げていた。
松村は顔を曇らせて頭を掻いた。
「でも片倉さん、離婚寸前の人妻はまずいですよ。そういう女性は夫と別れるから結婚しろとか、結構後腐れがあるんですよ」
「それは大丈夫だ。夫の梅野という男は、たとえ妻が浮気したとしても、離婚には応じないだろう」
片倉は自分に立場を置き換えてそう考えていた。
梅野も片倉同様、出世の命取りになるような家庭内の不和は、自分が犠牲になっても公にできないだろう。
「ふうん…でも片倉さんはその女に不倫させて、何か得があるんですか?」
その松村の質問を片倉は予期していた。
「うん、実は松ちゃんの病院へ部下と同行した時、その女を見かけて熱を上げていたんだよ。その後何度か口説いたんだけど、手ひどくふられてね」
片倉はいかにも真実らしく、悔しそうな顔で抜け抜けと語った。
「へえ、プライベートで?」
「ああ、勝気な女だから強烈な肘鉄さ。他人の妻を口説くとは何事かってね。そこまで言うのなら、松ちゃんに口説かれてる貞操が守れるのか、実験したいと思ってさ」
「なるほど」
「それで松ちゃんが女を手懐けた段階で、浮気の現場写真を撮ってもらいたいんだよ。思いっきり卑猥な写真をね。そうしたらそれを僕が譲り受けて、夫にばらされたくなければ言うことを聞けと…」
「ひゃあ、片倉さんも悪人だな」
松村は片倉の姦計に興が乗ってきたようだった。
片倉も非情な悪巧みだと思った。
しかし相手の弱点を攻めるのは勝負の鉄則だ。
片倉は友紀の淫らな写真を手に入れ、人事部に匿名で送ろうと考えていた。
妻のスキャンダルを抱えた男を、人事部が支社長に抜擢するはずがない。
破綻した夫婦の陥穽をついた巧妙な作戦だ。
片倉は松村の鼻先に人参をぶら下げておくことを忘れなかった。
「もしこの計画が成功したら、勿論報酬を出させてもらうよ」
「報酬?」
松村の目が輝いた。
「女を手懐けるための工作費を含めて、松ちゃんの飲み食いの金を百万円まで、うちの会社の交際費で落としてあげるよ」
「百万円?」
所詮小物の松村が百万円で動揺しているのは、その目の落ち着きない動きからすぐにわかった。
しかしここはもう一手、おだて上げるのがベストだ。
「頼む、報酬には不満だろうが、これは君にしか頼めないことなんだ」
松村は緩む頬を必死に引き締めようとしているのがまる分かりの顔で、尊大ぶって頷いた。
「ううむ、難しいかもしれないけど協力しましょう」
「有難う」
片倉は両手で松村の手を握った。
こうして片倉の姦計は役者を揃えて幕を開けた。
成功するか失敗するかは松村の働き次第だが、浮気慣れした友紀を落とすのは、それほど難しくないはずだ。
片倉は自分が支社長に昇格した時、梅野をどう処分するかを考え始めていた。
つづく…
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