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『色褪せぬ薔薇』・・・第一章

             『色褪せぬ薔薇』

『色褪せぬ薔薇』
 第一章

東北新幹線は北を目指して一路驀進する。
水墨画を思わせる雪化粧した山野と山里が、ビデオを早送りするように車窓を流れていく。

(便利ではあるが味気のない旅だな)

激しく振動するグリーン車の座席で、吉川秀明は、紙コップのコーヒーを片手に心の中で呟いた。
東北新幹線「はやて」の運行が始まり、東京―仙台間は、僅か一時間半程度の旅程に短縮された。

今やビジネスマンにとって、仙台は日帰り出張が当たり前になっている。
上野発の夜行列車が隆盛を誇っていた時代とは、まさに隔世の感があった。

秀明の隣には、ダークグレイのスーツを着た秘書の梶山玲子が座っている。
玲子は三十路半ばの独身キャリアである。
縁なしの細い眼鏡を鼻先から押し上げ、パソコンを開いてモバイルに接続した。

「本日のご予定を確認させて戴きます」

「うん、頼む」

玲子は、几帳面にスケジュールを読み上げた。
仙台到着後、得意先のホームセンター社長と昼の会食。

その後、住宅建設メーカー二社を表敬訪問。
三時からは東北支社での営業会議に出席。

そして夕方には東京へとんぼ返りして、夜は銀座の料亭で大手マンション販社の部長と会食。
うんざりとした表情で、秀明は玲子の顔を見返した。

「老人には殺人的なスケジュールだな。せっかく仙台まで行くのだから、もっとゆっくりさせてくれないのかね?」

眉間に皺を寄せた玲子は、眼鏡の奥から秀明を睨み返した。

「将来は我が社を背負って立たれるのですから、この程度のスケジュールはこなして戴きませんと」

けんもほろろな玲子の言葉に、秀明はふんと鼻を鳴らして車窓へ目を戻した。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第二章

『色褪せぬ薔薇』
   第二章

来年還暦を迎える秀明は、現在、太平洋建材で専務取締役営業本部長を務めている。
太平洋建材は、玄関ドアやバスユニット、システムキッチンなどを製造販売する住宅用建材メーカーである。
社員一万人を抱える業界大手の太平洋建材にあって、秀明は次期社長の最有力候補と目されていた。

むろん秀明にも野心はある。
入社以来三十七年間、秀明は誰よりも遮二無二働いてきた。

仕事人間と蔑まれようが、ただひたすら会社のために仕えてきた自負がある。
やっとその努力が認められ、社長と言う煌びやかな頂点に、手が届くところまで昇り詰めたのだった。
玲子は、ホームセンター社長の経歴書を秀明に手渡した。

「確か吉川専務は、昔、仙台で営業をされていたことがおありでしたね」

「・・ああ、二十五年前だったかな。課長になりたてで、がむしゃらに仕事をしていたよ。あの頃の若さが今あれば、今夜は東京へ戻らず、君を作並温泉にでも誘っているところだがな」

軽い冗談のつもりで秀明は大笑したが、玲子の冷たい視線に気づいて口を塞いだ。

「専務、今の発言はセクハラです。大切な時ですから、不用意な言葉は慎んで下さい。それに明日は、朝から東京で役員会が入っています」

「・・すまん」

またしても玲子に窘められた秀明は、頭を掻いて再び車窓の外へ視線を戻した。
轟音とともに列車がトンネルに入った。
ふと暗い車窓に自分の顔が映った。

(あれから二十五年が経つのか・・)

ガラスに映った秀明は、仙台にいた三十代の頃とは別人になっていた。
頭髪は白くなり、皮膚が弛んだ顔は、皺と染みだらけの老醜を晒している。

人は苦労人だと褒める。
だが秀明自身には、その皺一本一本が、染み一つ一つが、過去に傷つけてきた人々の怨嗟に思えてならなかった。

(これがトップに立つ者の罪なのか・・)

振り返ると、そこには蹴落としてきたライバル達の屍が累々と重なっていた。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第三章

『色褪せぬ薔薇』
   第三章

競争社会である。
勝者がいれば必ず敗者が生まれる。
敗れた彼等は、秀明の前では従順に跪いているが、裏では嫉ましい目つきで恨み呪っている。

そして秀明の失脚を虎視眈々と狙っているのだ。
身内である家族にしても、その絆は疾うの昔に断ち切れていた。
深夜残業、休日出勤、接待、ゴルフ――長年家族を顧みなかった報いでだった。

妻とは一度も喧嘩をしたことがない。
それは喧嘩ができるほど妻を知らないからだった。
冷え切った妻子との関係は、秀明が残すであろう財産で繋がっているに過ぎなかった。

秀明は小さくため息をついた。
出世と言う栄誉の陰で、秀明は家族も含めて多くの人達を無意識に傷つけてきた。
そして気がつけば、友もなく、家族もない、一人ぼっちの老人になっていた。

トップは孤独だと言う。
だが秀明は、それに堪え得る強い男か自信が持てずにいた。実は人一倍寂しがり屋だった。
もし時間を巻き戻せるなら、出世などせずとも、家族や友人と心通じる人生をやり直したいと思っていた。

新幹線が長いトンネルを抜けた。
もう仙台は近い。冬の東北には珍しく、暗い雲の隙間に青空が覗いている。

(葉子・・)

秀明には、今回の仙台出張で是非とも詫びたい女性がいた。
家族よりも、社内のライバル達よりも、かつて秀明が酷い仕打ちをしてしまった女性だった。
峰に白銀を頂く山々へ目を細めながら、秀明は葉子の顔を密かに想い浮かべた。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第四章

『色褪せぬ薔薇』
   第四章

杜の都、仙台。
駅で待ち受けていた社用車に乗り込むと、秀明は慌しく仙台の街へ滑り出した。

市街地に雪はなかった。
仙台へは時々出張で訪れるが、どこか今日は、その街並みが懐かしく思えてならなかった。

昼の会食と表敬訪問を終えた秀明は、東北支社に入るや営業会議に臨んだ。
すでに大会議室には、東北で営業する百名近くの社員が集っていた。
東北支社長が秀明の参着を告げると、会議室はしんと静まり返った。

「私も若い頃、皆さんと同じように、この東北支社で営業をしていました・・」

静聴する社員に、秀明は自分が歩んできた会社人生を熱く語った。
だが最後を締め括った言葉が、今秀明の直面している苦悩を吐露していた。

「・・しかしだ、仕事と言う美称に溺れてはいけない。周囲の仲間や家族への愛情を忘れず、会社と共に人生を豊かなものにして頂きたい」

社員から一斉に大きな拍手が起きた。
ひな壇から下りた秀明は、お役御免とばかりに、会議室の一番後ろの席に腰かけた。

集まった社員達の業績発表が始まると、秀明はトイレへ行くふりをしてそっと会議室を抜け出した。
階段を下りると、そこには受付と応接室、そして事務方のオフィスがある。

「こ、これは、吉川専務」

業務課長の山下良之が、秀明の姿を見つけて慌てて席を立った。
同時に十名ほどの業務課員達が秀明に頭を下げた。

「何かご用がございますか?」

「ん、いや・・」

業務課員を見渡した秀明は、山下一人を廊下へ連れ出した。
秀明は小さく咳払いした。

「大崎葉子君に会いたいのだが」

「えっ、大崎・・大崎など・・あっ、もしかすると駒木葉子さんのことですか? 確か昔は、大崎姓だったと聞いたことがありますが・・しかし何故・・」
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第五章

『色褪せぬ薔薇』
   第五章

山下が驚くのも無理からぬことだった。
今をときめく専務取締役が、一介の、しかも五十代半ばの女性事務員に会いたいと現れたのだ。

「私が仙台にいた頃、いろいろと世話になったんだ。それでちょっと顔を見に来たんだよ」

すると山下は表情を曇らせ、申し訳なさそうに答えた。

「駒木さんは・・数ヶ月前から休職しています。実は、その、長いこと入退院を繰り返していまして・・」

「何っ、彼女は病気なのか?」

「はい・・あの・・末期癌だと・・」

意外な山下の言葉に秀明は絶句した。

「・・う、嘘だろう?」

「いえ・・医者からは一週間ぐらいが山じゃないかと・・」

「ば、馬鹿な・・そんなことは許さん。すぐに病院へ案内してくれ!」

秀明は山下の胸倉を両手でつかむと、ぐいぐいと前後に揺すった。
その時、秀明を探していた玲子が慌てて駆け寄ってきた。

「何をなさっているんですか? そろそろ仙台駅へ移動する時間です」

「いや、私はこれから彼と一緒に病院へ見舞いに行く」

「いけません。これから東京へとんぼ返りして頂きます」

「夜の会食は延期してもらってくれ」

「いえ、会食を優先して頂きます。この先社長をなさる方が、そんな勝手をされては困ります」

秀明は握り締めた拳を震わせた。

「うるさいっ! そんなに社長業が不自由なら、こちらから願い下げだ!」

秀明は玲子を怒鳴りつけると、山下を連れて支社を出てタクシーに飛び乗った。
もう日は西に傾きつつあった。
薄く垂れ込めた雲の縁が茜色に染まり始めていた。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第六章

『色褪せぬ薔薇』
   第六章

二十五年前。
三十四歳になった秀明は、課長職に昇格するとともに、関東支社から東北支社へと転勤を命じられた。

東北支社のある仙台は、縁も所縁もない土地だったが、秀明は意欲満々で辞令を受けた。
管理職として営業チームを率いるのは初めてだったし、秀明自身、仕事が面白くて仕方ない年齢を迎えていた。

ところが妻は仙台への引っ越しを拒んだ。
結婚が早かった秀明には、すでに小学校低学年になる息子がいた。

それを理由に妻は単身赴任を勧めた。
だが妻の真意は、自分の実家がある横浜を離れたくなかったのだった。
渋々秀明は一人で仙台へ乗り込んだ。

仙台での仕事は順調だった。
秀明は部下の先頭に立って仕事に専心した。

すると秀明の熱意が浸透したのか、低迷していたチームの業績は急上昇した。
そしてチームリーダーである秀明の名前も、一躍全国区で知れ渡った。

だが反面、一人暮らしの経験がない秀明にとって、見知らぬ土地での単身赴任生活は悲惨を極めた。
家事を全て妻に任せ切りだった秀明は、料理の作り方はおろか、洗濯機の使い方もわからない有様だった。
また仕事から戻れば、疲れ果てて掃除をする気にもなれなかった。

一ヶ月も経つと、アパートの六畳間は夢の島と化した。
万年床の周りには、ビールの空き缶や乾き物の空き袋が散乱し、部屋の隅には、洗っていない洗濯物が小山を築いた。
捨て忘れた生ゴミと黒カビが蔓延る浴槽からは、鼻を摘みたくなる異臭が立ちこめた。

一人暮らしで酒量も増えた。
得意先の接待や、部下を飲みに連れて行くことも多かったが、自炊ができないため、夜は近くの小料理屋に通って飯を食った。

行けばついつい酒を飲む。
気がつくと、毎日深酒する生活が習慣になっていた。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第七章

『色褪せぬ薔薇』
   第七章
そんな不摂生が祟ってか、異動して三ヶ月が経った冬、秀明は風邪をこじらせて寝込んでしまった。

(せっかく業績が上がって、部下達もやる気になっているのに・・)

秀明は臍を噛んだ。
一週間後に、東北大手の住宅建設会社への入札が控えていた。
この入札に成約すれば、チームの業績は全国トップクラスに躍り出る。

だが三十九度を超える熱は、一向に退く気配すら見せなかった。
ろくな食事もとれず、秀明はトイレへ行くのもままならなくなっていた。

(妻には助けを求めたくない)

単身生活を始めてから、夫婦の溝はいっそう深まっていた。
仙台へは時々息子が電話をしてくるだけで、妻からの連絡など皆無に等しかった。

家庭を顧みなかった秀明は、妻にとって居ようが居まいがどうでもいい存在だったのだ。
そんな冷えた夫婦関係が、妻を仙台へ呼ぶことを秀明に躊躇わせた。

秀明は絶望に苛まれながら、異臭漂うアパートで、ただ布団を被って悶々とするばかりだった。
ところが、寝込んで三日目の日曜日、不意に大崎葉子が見舞いに来てくれた。

「し、死んじゃいますよ、吉川課長」

病状に驚いた葉子は、慌てて車で秀明を休日診療所へ連れて行った。
肺炎になりかけていた。
医者は葉子を叱った。

「奥さん、こんなになるまでご主人を放っておいたらダメじゃないか」

葉子は目を丸くしたが、言い訳もせず医師に頭を下げた。
帰りの車の中で、秀明は朦朧としながら謝った。

「・・迷惑をかけて済まない」

「いいんですよ。でもあの先生ったら、私のことを奥さんと間違えていましたね」

車を運転しながら、葉子はニコニコして頻りにそればかり繰り返した。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第八章

『色褪せぬ薔薇』
   第八章

葉子は二十九歳、太平洋建材東北支社の業務課に勤務している。
秀明とは職種こそ違うが、同じ支社に勤める同僚だった。
気さくで明るい葉子は、得意先の評判も良く、営業からは裏方として頼りにされていた。

秀明も葉子を妹のように可愛がった。
部下を連れて飲みに行く時は、よく葉子にも声をかけた。

葉子は安い焼鳥屋でも喜んでついて来た。
そしてニコニコ笑いながら、男達の憂さ晴らしにつきあってくれた。
布団に潜りながら、秀明は忙しそうに部屋を片づける葉子を横目で見ていた。

(親切は有難いのだが・・)

葉子は新婚の人妻だった。
地方公務員の夫と一年前に見合い結婚していた。
いくら会社の同僚が病気だとは言え、男と女がひとつの部屋にいるのは世間体が悪い。

「あ、有難う。もう大丈夫だから・・」

「大丈夫じゃありません。お風呂も全然掃除していないじゃないですか。こんな部屋で暮らしていたら、病気になるのも当たり前です。あら、洗濯物もこんなに・・」

「いや、しかし・・ご主人が待っているんじゃないか?」

「気にしないで下さい。私、結構お節介で、困っている人を放っておけないんです」

葉子は秀明の気まずさなど意に介さず、甲斐甲斐しく風呂掃除と洗濯を始めた。
その日、葉子は夕方まで気忙しく家事を続けた。
お蔭で部屋は見違えるようにピカピカになった。

「吉川課長、これからも時々チェックに来ますから」

そう叱ってスペアキーを取り上げた葉子は、つくったお粥を卓袱台に残して帰って行った。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第九章

『色褪せぬ薔薇』
   第九章

その言葉通り、秀明の風邪が治っても、葉子はアパートを訪れるようになった。
退社時間が早い葉子は、残業の秀明が戻ってくる前に、掃除と洗濯、そして夕食の用意を済ませて帰るのだった。

だが卓袱台の上には、まるで葉子が一緒にいるかのように、真紅の薔薇が一輪挿しに活けてあった。
葉子の気持ちは嬉しかった。
だがそれが一週間も続くと、さすがに秀明も放ってはおけなくなった。

ある日、外回りの仕事を早目に切り上げると、秀明は会社へ戻らずアパートへ直帰した。
鍵は開いていた。
秀明は恐る恐る玄関のドアを開けた。

「あら、お帰りなさい。今日は早かったんですね」

まるで新妻のように、葉子はエプロン姿で秀明を迎えた。
六畳間の卓袱台には、いつものように葉子の手料理が用意されている。

「寒かったでしょう。今、お風呂を沸かしますから・・」

葉子ははにかみながらコートを脱がせた。
狭い部屋を甲斐甲斐しく立ち振る舞う葉子は、秀明の世話をするのが心から楽しそうに見えた。
秀明は卓袱台に胡坐をかくと、葉子を前に座らせて心を鬼にして言った。

「今日早く帰ってきたのは、はっきりさせておかなければならないことがあるからだ」

「・・・・」

「君は結婚したばかりでご主人がいる。僕を気遣ってくれるのは嬉しいが、これ以上は君のためにならない」

厳しい口調で切り出した秀明は、やや俯き加減に正座する葉子へ目を遣った。
つづく…
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『色褪せぬ薔薇』・・・第十章

『色褪せぬ薔薇』
   第十章

北国の女らしく、葉子は色白で端正な顔立ちをした美人だった。
ウエーブのかかった髪が肩の上で小さく震えている。
長い睫毛を伏せた葉子は、愛らしい薄桃色の口唇をキュッと噛み締めた。

そして鳶色の虹彩を見開いてすくっと立ち上がった。
その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。

「私、主人と別れようと思っているんです」

「ど、どうして・・辛いことでもあるのか?」

「いいえ、主人は優しい人です・・いけないのは私・・」

三十路を前にして、葉子は婚期を逃すことを恐れた。
体調が思わしくない両親の喜ぶ顔も見たかった。
そんな後ろ向きの理由で、葉子は地方公務員の夫と見合いをしたのだ。

結婚生活は針の筵だった。
当然ながら夫は、葉子が専業主婦になり、早く子供を産んでくれることを望んだ。

だが葉子は夫を愛する自信がなかった。
このまま夫に扶養される安定した生活に、葉子は生きることの張り合いを見出せずにいた。

「いい加減な気持ちで結婚したことを、夫には申し訳ないと思っています」

「しかし・・夫婦なんてそんなものじゃないのか?」

秀明は自分を顧みて、夫婦など所詮他人だと達観していた。
恋愛結婚をしても、愛と言う錯覚で一緒になっただけで、それがいつまでも続くわけもない。
葉子は首を振った。

「吉川課長がひたむきに仕事をしている姿を見て、私も悔いのない人生を送りたいって思ったんです・・」

そして葉子は一輪挿しの薔薇へ目を遣った。

「私、自分の夢を叶えたい。フラワーアレンジメント。お金を貯めてお店を持ちたい・・嘘偽りのない人生を全うしたい・・仕事も・・こ・・こ、恋も・・」
つづく…
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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
※ 小説を読まれる方へ・・・   更新記事は新着順に表示されますので、小説を最初からお読みになりたい方は、各カテゴリーから選択していただければ、第一章からお読みいただけます。
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