『色褪せぬ薔薇』・・・第七章
『色褪せぬ薔薇』
第七章
そんな不摂生が祟ってか、異動して三ヶ月が経った冬、秀明は風邪をこじらせて寝込んでしまった。
(せっかく業績が上がって、部下達もやる気になっているのに・・)
秀明は臍を噛んだ。
一週間後に、東北大手の住宅建設会社への入札が控えていた。
この入札に成約すれば、チームの業績は全国トップクラスに躍り出る。
だが三十九度を超える熱は、一向に退く気配すら見せなかった。
ろくな食事もとれず、秀明はトイレへ行くのもままならなくなっていた。
(妻には助けを求めたくない)
単身生活を始めてから、夫婦の溝はいっそう深まっていた。
仙台へは時々息子が電話をしてくるだけで、妻からの連絡など皆無に等しかった。
家庭を顧みなかった秀明は、妻にとって居ようが居まいがどうでもいい存在だったのだ。
そんな冷えた夫婦関係が、妻を仙台へ呼ぶことを秀明に躊躇わせた。
秀明は絶望に苛まれながら、異臭漂うアパートで、ただ布団を被って悶々とするばかりだった。
ところが、寝込んで三日目の日曜日、不意に大崎葉子が見舞いに来てくれた。
「し、死んじゃいますよ、吉川課長」
病状に驚いた葉子は、慌てて車で秀明を休日診療所へ連れて行った。
肺炎になりかけていた。
医者は葉子を叱った。
「奥さん、こんなになるまでご主人を放っておいたらダメじゃないか」
葉子は目を丸くしたが、言い訳もせず医師に頭を下げた。
帰りの車の中で、秀明は朦朧としながら謝った。
「・・迷惑をかけて済まない」
「いいんですよ。でもあの先生ったら、私のことを奥さんと間違えていましたね」
車を運転しながら、葉子はニコニコして頻りにそればかり繰り返した。
つづく…
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(せっかく業績が上がって、部下達もやる気になっているのに・・)
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一週間後に、東北大手の住宅建設会社への入札が控えていた。
この入札に成約すれば、チームの業績は全国トップクラスに躍り出る。
だが三十九度を超える熱は、一向に退く気配すら見せなかった。
ろくな食事もとれず、秀明はトイレへ行くのもままならなくなっていた。
(妻には助けを求めたくない)
単身生活を始めてから、夫婦の溝はいっそう深まっていた。
仙台へは時々息子が電話をしてくるだけで、妻からの連絡など皆無に等しかった。
家庭を顧みなかった秀明は、妻にとって居ようが居まいがどうでもいい存在だったのだ。
そんな冷えた夫婦関係が、妻を仙台へ呼ぶことを秀明に躊躇わせた。
秀明は絶望に苛まれながら、異臭漂うアパートで、ただ布団を被って悶々とするばかりだった。
ところが、寝込んで三日目の日曜日、不意に大崎葉子が見舞いに来てくれた。
「し、死んじゃいますよ、吉川課長」
病状に驚いた葉子は、慌てて車で秀明を休日診療所へ連れて行った。
肺炎になりかけていた。
医者は葉子を叱った。
「奥さん、こんなになるまでご主人を放っておいたらダメじゃないか」
葉子は目を丸くしたが、言い訳もせず医師に頭を下げた。
帰りの車の中で、秀明は朦朧としながら謝った。
「・・迷惑をかけて済まない」
「いいんですよ。でもあの先生ったら、私のことを奥さんと間違えていましたね」
車を運転しながら、葉子はニコニコして頻りにそればかり繰り返した。
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