「人外境の花嫁」十.暗黒の救済者(一)
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十.暗黒の救済者 (一)
降矢木士朗の登場だった。
だが月絵を助けに来た白馬の王子様は、福富町で見かける時と変わらぬ冴えない恰好をしていた。
(もうっ、ヒーローなのにどうしてヨレヨレのTシャツで現れるのかしら?)
寝起きで新聞を取りに出て来たような降矢木に、月絵と畠山は目を丸くして顔を見合わせた。
大声で泣きたいほど心は昂っているのに、何故か月絵は冷静に、今度の休みは降矢木の服を買いに行こうかと思った。
何はともあれ、やはり降矢木は月絵と畠山が心配で追いかけて来てくれたのだ。その事実だけで、月絵の乙女心はキュンキュンと締めつけられる。
「ううっ、ううっ」
猿轡を噛まされて言葉にはならないが、月絵は泣きながら必至に降矢木の名を呼んだ。
ところが降矢木は、そんな月絵や畠山に気づきもしないのか、大聖天堂で裸形を晒す天神会の幹部達を見渡した。
「こりゃいいですねえ。慈善宗教団体の乱交パーティーなんて、なかなかお目にかかれるものじゃないですから・・おっと皆さん、動かない方が身のためですよ」
突然の乱入者に身構えた幹部達へ、黄門様の印篭よろしく、降矢木は開いた携帯を周囲にぐるりとかざして見せた。
そして幹部達を牽制しながら、降矢木はくんくんと白く漂う煙の臭いを嗅いだ。
「ふふん、この煙は・・大麻を焚いているんですね」
幹部達は口を噤んだまま、誰一人動けずに静まり返っている。
「箕面谷の神社で車が脱輪しましてね。仕方なく付近の山を歩き回ったら、大規模な大麻畑を見つけましたよ」
そう告げると、降矢木は手にした携帯をもう一度高く掲げた。
「むろん大麻畑の隅々まで撮影させてもらいました。今このボタンを押せば、画像が告発文書と一緒に、親友の警察キャリアへ送信されるという段取りです」
ギリギリと歯噛みする幹部達に向かって、降矢木はさも楽しげに携帯の液晶パネルを見せつけるのだった。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。