『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十二)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(十二)
寛三は新入りながら、香具師の時代に培った度胸で、サンカ仲間から認められるようになっていった。
そして四五年もすると、サンカの生活様式や知識を身につけ、群れのリーダーとして信頼を勝ち得るに至った。
しかし自由な生活は長くは続かなかった。
昭和三十年代後半に入ると、農村の生活は一変した。
農業も近代化の道を迫られていた。
農作業の機械化による省力化、化学肥料と農薬による生産性の向上が進んだ。
それに伴って農具も進化し、竹細工の箕などはプラスチック製品に取って代わられた。
サンカは困窮した。
箕づくりと言う現金収入の術を失ったサンカは、新たな稼ぎ口を探さなければならなかった。
溶け込みと言われる定住生活である。
サンカに残された選択肢は、山奥の部落に定住して農業や林業に従事するか、大都市に流れて日雇い労働や水商売に身を落とすしかなかったのだ。
寛三の群れは山間地での定住を選んだ。
山奥に猫の額ほどの畑を拓き、山菜や川魚など山の恵みに助けられながら、助け合って家を建てて定住を始めた。
だが生活は豊かにならない。
自給自足の生活が辛うじて送れるだけで、現金収入がないために、高度経済成長に沸く日本の豊かさとは無縁だった。
昭和三十六年、少女は二十歳で大阪へ働きに出た。
子供を抱えた家族は、貧しさ故に口減らしせずには暮らせなかったからだ。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト