『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十六)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(十六)
タエが身籠ったのだ。
それは誰からも祝福されない慶事だった。
集落の長であるとは言え、妻がいる寛三には許されない不貞行為である。
そもそも集団行動するサンカは、仲間内の秩序を守るため、人倫に反する行いを厳しく罰してきた。
共同体で最も大切なことは和である。和を乱す者は仲間から制裁を受け、共同体から追放されるのも致し方なかった。
定住して集団農業を営む寛三達は、漂泊していた時代よりも、より厳しい規律を自らに課していた。
その代表者が掟を破る訳にはいかない。
狭い集落である。
タエの妊娠が目立つようになれば、集落には疑惑と不信の噂が飛び交う。
となれば、結束して有機農法に生活の活路を見出した集落が、再び貧困の苦渋を舐めることになるかもしれない。
寛三は懊悩した。
妻は子供ができない体質らしかった。
己の遺伝子を伝えることができるのは、タエが身籠っている子しかいない。
ならばタエと我が子をこの集落から遠ざけることが、最良の仕置きであるに違いなかった、
タエは一緒にいたいと泣いた。
部落にいられないのなら、手を取り合ってここから逃げようとせがんだ。
だが寛三は長として集落の生活を捨てるわけにはいかなかった。
必ず迎えに行くと言い残して、寛三はタエとまだ見ぬ子を関東へ追いやった。
妻の手前、金は与えられなかったが、寛三は横浜にいる昔の弟分を使って、定期的にタエの暮らしぶりを報告させるよう指示したのだった。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト