『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十三)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(十三)
寛三は貧しさを怨んだ。
無邪気な少女は、この先に待ち受けている過酷な運命を知らされることもなく、都会の幻想を抱いたまま独り山を下りて行った。
「お兄ちゃん、大阪へ遊びに来てね」
「・・ああ」
学問も手に職もない少女が大都会で生きるには、深夜、歓楽街の路地裏に立たなければならないかもしれない。
それは寛三も少女と変わらない。
技術も資格もないサンカは、高度経済成長に沸く日本の辺縁で、息を押し殺して生きなければならないのだ。
富む者は富み、零落れる者は零落れる。
それが戦後に変節した日本人が信じる自由に他ならなかった。
金を稼ぐ額が人間の価値を決め、金を稼げない者は人間として認められない国に日本は変わっていた。
寛三は定住した集落で金を稼ぐ方法を必死に考えた。
答えは共同農園と言うユートピアだった。
僅かな面積の山間地では、個人個人が農業を営むだけでは困窮する。
そこでサンカ仲間である集落全員で、集団農場を経営することを寛三は思い立ったのだ。
山中を彷徨い生活してきたサンカは、自生する植物の知識を豊富に持っていた。
手間はかかるが、共同作業で生産性を上げ、有機栽培の農作物を市場に出すことに賭けてみた。
すると折からの自然食ブームに乗って都市近郊から注文が殺到し、集落の所得水準は大幅に向上し始めた。
寛三は、少女を大都会へ身売りさせたことを忘れたい一心だったが、却って大都会の経済原理に支配されて、有機栽培農園の経営にのめり込んで行った
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト