『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者 (十)
寛三の新たな暮らしが始まった。
幸運にも少女の家族が面倒を看てくれることになった。寛三は少女の家族にサンカの生活を学びながら、山中を渡る漂泊者としての一歩を踏み出した。
だがサンカの暮らしは想像していたよりも厳しかった。
箕を売った現金で米は手に入るが、主菜は川魚や野草ばかりで、都会の生活と比べれば貧弱なものだった。
また衣食住にしても不衛生で、都会で見かける乞食とさほど変わらなかった。もちろんラジオや雑誌、映画などの娯楽もなく、星を見上げるだけの山奥の暮らしに退屈さを感じることもあった。
だが彼等こそが、文明に汚染されていない本来の人間の姿を現代に残していた。
豊かな生活を求めるため、金や地位、学歴などの奪い合いが都市文明の正体である。
その執着心が自分さえ良ければいいと言う利己主義を生み、結果、厳しい競争が本来持ち合わせている人間の相互扶助を失わせた。
(家族ですら家族でなくなる社会)
究極の共同体ですら、金の魔力によって崩壊させられるのが現代である。
貧困に喘ぐぐらいなら、稼ぎの悪い夫に見切りをつけるのが正しい処世術とされていた。
サンカとなった寛三は、箕を売るために九州の深山を転々とした。
場越しと呼ばれるサンカの移動である。数家族が揃って、ユサバリなどの生活道具を担いで獣道を足早に歩いて行く。
「お兄ちゃん、頑張って」
縁日の夜に出逢った少女は、寛三の背中を押しながらにっこりとほほ笑んでくれた。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト