『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十一)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(十一)
少女は十六歳になっていた。
サンカは河原に穴を掘ってテントを敷き、中に水と焼石を入れて即席の露天風呂を沸かす。
むろん塀も壁もない。
男も女も、若い娘も嫁も、衆目の中で平然と裸身を晒す。
家もなく銭湯もないのだから、彼等にとっては当たり前のことなのだろう。
寛三は少女の裸身を目にした。
薄い褐色の健康的な肌は、水滴を弾き返すほど張りと弾力があった。
牡鹿のように贅肉のない肢体が躍動する。
だがヨーヨー釣りで無邪気に遊んでいた頃と比べると、乳房はすっかり大人びて豊かに膨らんでいた。
「お兄ちゃん、横浜ってどんなところ?」
「うん、大きな街だ。海に面して立派な港があって、外国から来た船がたくさん出入りしているんだ」
「ふ~ん。あたしずっと山で暮らしているから、海を見たことがないの。港も船も。見てみたいなあ」
無垢な少女は膨らんだ乳房を隠そうともせず、寛三に寄り添いながら、目を輝かせて都会の話を聞きたがった。
少女と女の境界。
その危険で神々しい肉体に寛三は戦慄を禁じ得なかった。
それも異界なのかもしれない。
踏み込んではならぬ裸身に、寛三は想い続けてきた色欲を失った。
(だが・・これでいい)
この少女こそが異界の象徴であり、狡猾で薄汚れた社会への決別だったからだ。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト