『マネキン妻の懊悩』(一)
『マネキン妻の懊悩』(一)
「妄想の囲炉裏端」紅殻格子の呟き入口
FC2 R18官能小説
それはまだ多感な中学生の頃。
お洒落が気になり始めた少女は、よく友達を連れて、駅前にあるデパートのレディス・フロアに立ち寄った。
ブラウス、スカート、ワンピース――そこには煌びやかな最新のファッションが並んでいた。
少女はフロアを歩きながら、着せ替え人形に変身したつもりで、少し乳房が膨らみ始めた自分の裸身へ、色鮮やかな衣類を重ね合わせるのが好きだった。
友達が呆れて先に帰ってしまうほど、少女は何時間でも新しい衣類の匂いに陶酔できた。
ファッションモデルになるのが少女の密かな憧れだった。
肌も露な斬新モードを颯爽と着こなし、観客の視線を釘づけにすることを独り夢想していた。
そんな早熟な少女だったから、自分を美しく見せる努力は惜しまなかった。
母親の化粧品をこっそり使うことも度々あったし、フロアに並ぶマネキンのポーズを真似てみることもあった。
デパートにはたくさんのマネキンが置かれていた。
だがその大半は、上半身か下半身だけの部分像だった。
たまに全身像があっても、頭がなかったり、顔がのっぺらぼうだったりと、少女の気を惹くものではなかった。
ところが一体だけ、ショーウインドウにフルボディのマネキンが設えられていた。
(イヴ)
初めて衣服をつけた女性への敬意から、少女はマネキンにそう名前をつけた。
イヴは、ダークブラウンの長い髪と、リアルに描き込まれた美しい顔立ちを備えていた。
そして本物の肌質に近い手足は、生きている人間さながら、自然で伸びやかなポーズをつくり出していた。
フロアの女王として客の視線を浴びるイヴに、少女は憧憬にも近い感情を密かに抱いていた。
つづく…
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