『マネキン妻の懊悩』(十)
『マネキン妻の懊悩』(十)
「妄想の囲炉裏端」紅殻格子の呟き入口
FC2 R18官能小説
十
水割りで喉を湿した山田は意外なことを口にした。
「会社には内緒にして欲しいんだが、僕は柚木達朗の名で官能小説を書いているんだ」
「ええっ? 官能小説って、エッチな小説のことですか?」
耳を疑う美咲に、つかさずママがフォローする。
「柚木先生は雑誌に連載したり、単行本を何冊か出したり、その世界では結構有名な先生なのよ」
「ママ、それは褒め過ぎだ。僕は官能小説家としてはまだ二流だよ」
「あら、私は先生の大ファンですよ。もっとバリバリ書いて原稿料を稼いで、頻繁にお店へ来てもらわないと」
「おいおい、そんなに搾り取るなよ。搾り取るのはこっちの方だけにしてくれよ」
そう言って自分の股間を指差す山田に、ママと玲奈は腹を抱えて笑った。
美咲はじっと山田の顔を見つめた。
美咲の印象では、真面目で、恐妻家で、遊びと性の匂いが最も希薄な男が山田のはずだった。
その山田が、官能小説家と言う正反対の顔を持っていたのだ。
(人間ってわからないものね)
だがそれは美咲も同じかもしれない。
今夜は酔って醜態を晒してしまったが、山田は淑やかな受付嬢の美咲しか知らない。
ところがその淑やかさの裏には、誰にも口にできない淫らな欲望を潜ませているのだ。
ふと美咲は微かな期待を抱いた。
官能小説家ならば、性への造詣はかなり深いに違いない。
山田ならば、イヴの淫欲に懊悩する美咲を救ってくれるかもしれない。
「山田課長、いいえ、柚木先生でしたっけ。どうして官能小説を書こうと思われたんですか?」
山田はソファに深くもたれて腕組みした。
「う~ん、自分も含めた、人助けかな」
「人助け? 官能小説が、ですか?」
「そう。人間は誰しも心の中に淫らな欲望を隠している。例えば恋人を黒縄で縛ってみたいとか、妻が他の男に抱かれるのを見たいとか・・」
「・・・・」
「こ、ごめん。ちょっと神倉さんには刺激が強過ぎたかな。まあ人間は、特に男はね、妻や恋人にも言えない変態性欲を、一つや二つ抱えて悶々としているんだよ。そのやり場のない淫欲を、物語の中で叶えてあげるのが官能小説家の仕事だよ」
つづく…
『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2官能小説 人気ブログランキング~愛と性~
「妄想の囲炉裏端」紅殻格子の呟き入口
FC2 R18官能小説
十
水割りで喉を湿した山田は意外なことを口にした。
「会社には内緒にして欲しいんだが、僕は柚木達朗の名で官能小説を書いているんだ」
「ええっ? 官能小説って、エッチな小説のことですか?」
耳を疑う美咲に、つかさずママがフォローする。
「柚木先生は雑誌に連載したり、単行本を何冊か出したり、その世界では結構有名な先生なのよ」
「ママ、それは褒め過ぎだ。僕は官能小説家としてはまだ二流だよ」
「あら、私は先生の大ファンですよ。もっとバリバリ書いて原稿料を稼いで、頻繁にお店へ来てもらわないと」
「おいおい、そんなに搾り取るなよ。搾り取るのはこっちの方だけにしてくれよ」
そう言って自分の股間を指差す山田に、ママと玲奈は腹を抱えて笑った。
美咲はじっと山田の顔を見つめた。
美咲の印象では、真面目で、恐妻家で、遊びと性の匂いが最も希薄な男が山田のはずだった。
その山田が、官能小説家と言う正反対の顔を持っていたのだ。
(人間ってわからないものね)
だがそれは美咲も同じかもしれない。
今夜は酔って醜態を晒してしまったが、山田は淑やかな受付嬢の美咲しか知らない。
ところがその淑やかさの裏には、誰にも口にできない淫らな欲望を潜ませているのだ。
ふと美咲は微かな期待を抱いた。
官能小説家ならば、性への造詣はかなり深いに違いない。
山田ならば、イヴの淫欲に懊悩する美咲を救ってくれるかもしれない。
「山田課長、いいえ、柚木先生でしたっけ。どうして官能小説を書こうと思われたんですか?」
山田はソファに深くもたれて腕組みした。
「う~ん、自分も含めた、人助けかな」
「人助け? 官能小説が、ですか?」
「そう。人間は誰しも心の中に淫らな欲望を隠している。例えば恋人を黒縄で縛ってみたいとか、妻が他の男に抱かれるのを見たいとか・・」
「・・・・」
「こ、ごめん。ちょっと神倉さんには刺激が強過ぎたかな。まあ人間は、特に男はね、妻や恋人にも言えない変態性欲を、一つや二つ抱えて悶々としているんだよ。そのやり場のない淫欲を、物語の中で叶えてあげるのが官能小説家の仕事だよ」
つづく…
『紅殻格子メディア掲載作品&携帯小説配信サイト』紹介
にほんブログ村 恋愛小説(愛欲) FC2官能小説 人気ブログランキング~愛と性~