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『妻の娼婦像』  第一章 


 妻の娼婦像


隠されていた絵を見て敬一は愕然とした。
こんもりと形の良い乳房とくびれたウエスト
澄ましたその顔は確かに妻の晶子で―

『妻の娼婦像』
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(一)

都心から郊外に向かう急行列車は、立錐の余地もないほど混雑していた。
互いに体を接着剤でつけられたように、身じろぎひとつできない。
夜八時、乗客のほとんどは帰路を急ぐサラリーマンだった。

大島敬一は吊革にぶら下がりながら、なんとかハンカチを取りだして額の汗を拭った。
梅雨時の満員電車は地獄だ。高温多湿で車窓は曇り、押し合う隣人の体温が気持ち悪い。
入り混じった安酒と下品な香水の匂いが鼻に突く。

不快な列車の中、乗客たちは羊のような従順さで黙って耐え忍んでいる。
幸運にも席に座れた者は、皆、頭を垂れて眠っている。

先ほどまで熱心に経済新聞を読んでいたOLも、今はだらしなく両脚を開いて船を漕いでいる。 座れなかった乗客は、駅売りの夕刊を開くことも寝ることも許されず、気の抜けたような顏で押し黙っている。

(皆、疲れているようだな)

心身ともに疲労のピークに達した乗客たち。
中でも四、五十歳の中年サラリーマンの疲れた姿に敬一はつい目を走らせてしまう。

この私鉄の沿線は新興住宅地で、乗客の多くはマンションや一戸建てを購入した住人である。
いくら地価が下がっても、サラリーマンの薄給で買える家は、都心から一時間半以上の通勤を伴う。
だがそんな僻地でも若くして家を持つなど並大抵のことではなく、定年間近にしてやっと手に入れた、ということも珍しくはない。

たとえ自分の城を構えても、住宅ローンが死ぬまで重い足枷となる。
ローン返済のためには、会社にしがみくしかない。

手当のつかないサービス残業を快く引き受け、休日も上司の下手くそなゴルフに拍手を送る。
こうして一生を会社に捧げた報酬が、狸の縄張りを荒らすような場所に建てたマッチ箱の家一つなのだ。

しかし敬一はそんな彼らを羨望の眼差しで見ていた。 
激務に疲れ果てた表情の中には会社を担う自負が、しょぼくれた背中に家族を養うプライドが滲んでいた。

(それに比べて…)

漆黒の車窓に写る自分の姿に、敬一は我が目を疑った。
周囲の乗客たちと同じ背広姿なのに、自分だけがどこか煤けて見すぼらしく見えた。

錯覚かもしれないが、乗客たちは敬一が既に自分たちの仲間ではないということを見破っているように感じられた。 
ふいに敬一は深い孤独感に襲われた。

半月前、敬一は二十年務めた会社を解雇された。
リストラである。 
四十二歳、小学校に通う子供を抱え、敬一は毎日のように職安通いと採用の面接を繰り返していた。

(惨めな社会の脱落者か)

乗客たちの冷たい視線が背中に刺さり、嘲笑う声が聞こえるようにも感じる。
敬一は軽蔑と侮辱の幻影に堪えながら、一刻も早く駅に着かないかと思った。

駅に列車が着くと、敬一は逃げるようにバス停まで走った。
そして停車しているバスの後部座席の隅に身を隠した。

(まさか自分がリストラされるとは…)

敬一は車窓を流れる街並みを横目に呟いた。
新聞、テレビが騒ぎ立てているリストラが、敬一自身に降りかかろうとは夢にも思っていなかった。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第二章

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(二)

敬一は大手食品メーカーに勤務していた。
御多分に漏れずバブル経済の崩壊後、会社の業績は低迷していた。
しかし世界的にも名が通った大企業であり、景気さえ回復すればと高を括っていた。

ところが打開策として始めた新規事業への参入が命取りとなった。
新規事業のコスト増により、本業までが赤字に陥ったのだ。
経営陣は秘密裏に画策して、新規事業を外資系メーカーに売却するという荒治療に出た。

誰もが寝耳に水だった。
新規事業部の経理課の課長職にあった敬一も、プレス発表当日まで身売り話を全く知らずにいた。
動揺する社内は外資系の影に覆われ、雰囲気が一変した。
経営効率の改善が最優先課題となり、コスト削減が社命として下された。

企業における最大のコストは人件費である。
大幅な人員削減が発表された。
特に敬一が所属する経理のような間接部門は、真っ先に合理化の対象として目をつけられた。

会社の非情さを二十年めにして思い知らされたのである。

敬一はバスを降りると、街灯も疎らな暗い坂道を登り始めた。
雨は上がっていたが、夜道には湿った土の匂いが立ち籠めている。
まだ雑木林と畑が多く残る新興住宅地は、白い靄に包まれ深閑としていた。

敬一は息を切らせながら坂を登った。
四十歳を過ぎて体力の衰えを痛切に感じた。
悲鳴をあげる肉体が、会社への恨みつらみを一層掻き立てた。

(過去を恨んでも仕方がないか…それより一刻も早く再就職先を探さないと)

それが敬一の最大の課題だった。
しかし何の成果も得られないまま、今夜もこうして我が家の玄関まで戻って来た。

敬一は自宅の前で立ち止まった。
僅か三十坪ほどの小さな一戸建てである。
窓から漏れる明かりを見て、家族を守らなければという思いにかられた。

しかし今の敬一はその力を失っていた。 
何処かへ逃げ出したい衝動に駆られながら、敬一は大きく深呼吸をしてチャイムを押した。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第三章

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(三)

敬一は食事と風呂を済ませ、リビングダイニングのソファに座ってテレビの電源を入れた。

「もう翔太は寝たのか?」

カウンターキッチンの椅子に座って子供の宿題に目を通している妻の晶子に声をかけた。

「ええ」

晶子は夫の問いかけに頭も上げず、そっけない返事をした。
敬一はぐっと缶ビールを呷り、煙草に火をつけた。

専業主婦の晶子は、一人息子の翔太の教育に余念がない。
今年七歳になる翔太は、大学まで一貫教育の有名小学校に通っている。
幼稚園から塾へ通い、難関を突破して入学した翔太を晶子は溺愛していた。

「今日の会社訪問はどうだったの?」

翔太の算数の計算問題をチェックしながら晶子が尋ねた。

「…感触は良くなかったよ」

敬一は口籠った。
リストラ以降、毎日のように繰り返される忌まわしい尋問の始まりだった。

「また駄目だったの」

晶子はふうっとため息をつき、やっとまともに、帰宅した夫の顔を見た。
その目は明らかに夫を軽蔑していた。

「あなた、いつまでも失業保険と僅かな退職金では暮らせないのよ。翔太の学費とこの家のローンだけでも、いくらかかると思っているの?」

「わかってる。しかし条件のいい再就職先となると、なかなか難しいんだ」

敬一は煙草を灰皿で揉み消した。

リストラの標的は圧倒的に中高年が多い。
理由は簡単だ。
若者より行動力が劣るわりに給料が高いからである。
確かに仕事への意欲を失ってしまった人間もいるし、新しい会社制度に適応しにくい人間もいるだろう。

しかし昭和四十年後期から五十年代の低成長時代に会社を支えてきたのは、今の中高年層に他ならない。
会社はその功績を無視し、過去の経験を切り捨てようとしているのだ。

リストラの影響はそれだけではない。
リストラされる中高年を目の当たりにした若者たちは、会社への信用と忠誠心を失うだろう。
大袈裟に言えば、日本を支えてきた勤勉な国民性は、ここに終焉を迎えようとしているのだ。

更に中高年のリストラが悲惨なのは、住宅費と教育費の捻出といった、家庭が最も金を必要とする時に収入を断たれることにある。

リストラされたから子供に学校を辞めろとは言えないし、住むところがないでは済まされない。
事実、私立学校を退学しなければならない生徒が増えているし、折角購入した家を手離さなければならない人もいると聞く。
まさにリストラは人生半ばの大厄である。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第四章

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(四)

しかし新規大卒者の就職も儘ならないこのご時世に、四十歳過ぎのリストラされた男を雇ってくれる会社など滅多にない。
何か特殊な技術や技能を持っていれば別だが、何の資格もない敬一にとって、今までの収入を維持できる就職先など皆無に等しかった。

「あなたはいつも難しい難しいって言い訳するけど、翔太に学校を辞めさせるつもり?それともこの家を売り払うつもりなの?」

「……」

晶子はヒステリックな口調に、敬一は堪えるしかなかった。
家庭での給料運搬人の地位を失った敬一に、反論する権利はない。

「仕事、仕事って遅くまで残業して、土日も会社に出てばかりいたのに、どうしてあなたが馘にされなきゃいけないの?」

晶子の呆れた表情が、暗に敬一の無能さを皮肉っていた。

「運が悪かったんだよ」

敬一は苦々しい顔をした。

「運? ふーん、私も結婚運が悪かったのかしら。結婚する相手を間違えたみたい」

ついに晶子の決め台詞が出た。
リストラ以降、晶子は敬一を慰め励ますどころか、自分の結婚運の悪さばかり嘆いていた。

「大企業のエリートだった人が、まさかリストラされるとはね。私も若かったから、男を見る目がなかったのね」

晶子は半ば自嘲気味に笑った。
妻は三十二歳、敬一よりも十も若い。
1児の母となった今も、まだ独身で通用する若さを保っている。

しかもその肢体からは人妻の成熟した艶を発散させていた。
結婚して十年、妻は美貌を保つと同時に、若い頃のわがままさも残していた。

(若い妻を娶った報いか…)

敬一は晶子とは別の意味で、人生の運の悪さを噛みしめていた。

つづく…

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『妻の娼婦像』  第五章

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(五)

三十歳当時、敬一は出世コースのトップを走っていた。
社運を賭けた新製品のマネージャーに若くして抜擢され、その前途は洋々たる希望に満ちていた。

全国規模の新製品発表会が企画され、当然敬一も運営の中核に参加していた。
その発表会のコンパニオンに応募してきたのが、現役の女子大生の晶子だった。

晶子は美しく、まだどこかあどけなさも残した顔立ちをしていた。
くりっとしたつぶらな瞳が、無邪気で清純な少女を思わせた。

反面、その肢体は、そのあどけなさからは想像できない豊満さを備えていた。
少女と大人の女の狭間に揺れる妖しさが、晶子の不思議な魅力を醸していた。

すぐに敬一は晶子の魅力の虜になった。 
当時、敬一は三つ年上の彼女が社内にいた。

彼女は姉さん女房タイプで、敬一が新入社員の頃から何かと面倒を見てくれていた。
器量は大して良くないが、献身的に尽くしてくれる彼女と敬一は結婚するつもりでいた。

しかし晶子との出会いが、敬一の身を固める決意を揺るがせた。
若く美しい晶子を掌中に収めたい。
心やさしい彼女を捨てさせるほど、晶子の美貌は敬一の血を騒がせた。

敬一は発表会が終わると晶子をデートに誘った。
幸い晶子には恋人がいなかった。
敬一は貯金をはたいて晶子の機嫌をとった。
彼女の好みの高価なブランド品やアクセサリー、贅沢な食事、送り迎えするために外車も買った。
若く気位の高い晶子を落とすには欠かせない投資だった。

それから半年後、横浜港を一望できる高台のホテルに晶子と初めて泊まった。

港に面した大きな窓をもつ豪窘な部屋で、敬一はベッドに横になって晶子がバスルームから戻って来るのを待った。 
満願成就の時を迎えて、敬一は少年のように胸をときめかせていた。

シャワーをあびてバスローブを一枚羽織っただけの晶子が、敬一の目の前に現れた。

「綺麗ね」

宝石をちりばめたような港の夜景が映る窓に、晶子は目を奪われていた。

肩まであるウェーブのかかった髪が部屋の明かりに艶めき、すっと長く伸びた真っ白い両脚が眩しい。
この半年で、晶子はさらに美しくなり、最初に会った頃のあどけなさも消え、その肢体に相応しい大人の女の顔になっていた。

晶子は敬一の視線を意識しながら、ゆっくりとベッドに潜り込んだ。
そして敬一の背中に両手を回して口唇を重ねてきた。

「ねえ、私と結婚してくれない?」

耳元で晶子が呟いた言葉に敬一は吃驚した。

「私、来年大学を卒業したら、あなたのお嫁さんになりたいの」

柳眉とバランスのとれた愛くるしい瞳が、じっと敬一の顔を射貫いている。

「けっ、結婚って、まだ若いのに?」

一方的な晶子からの求婚に、敬一は戸惑った。 
晶子は恋愛の対象としてはこの上ないが、結婚となると話は別である。
この先の長い人生を託す女を、容姿やスタイルだけで選ぶほど敬一は愚かではなかった。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第六章

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(六)

敬一は別れた年上の彼女を思い浮かべた。
思い遣りのある女だった。
どんなに辛いことがあっても、彼女と一緒にいると心が安らいだ。

敬一の理想の妻はそういう女だった。
しかしここで敬一が晶子の求婚をNOと言えば、今までの苦労が水の泡となる。

「あら、結婚は年齢でするものじゃないわ。私ね、子供の頃から甘やかされて育ったから、就職しても自立なんかできないと思うの。いつも近くに頼れて甘えられる人がいないと駄目みたい」

晶子が敬一に抱きつくと、バスローブの前がはだけた。
シルクのように白く滑らかな肌が現れた。
迫り出した豊かな乳房が、敬一の目の前で息づく。

想像していた通り、形の良い膨らみに小さな薄桃色の乳首が揺れている。
きゅっと括れたウエストと贅肉のない下腹部が、若鮎のような清冽さを醸しだしている。
そして柔らかな黒い翳りが、その奥に潜む快楽の園へと執着を掻き立てる。

「し、しかし、僕は君より十も年上のオジサンだよ」

敬一は掌中の獲物に食らいつきたい欲望を辛うじて抑えた。

晶子と半年付き合って、人生を託せる伴侶とはほど遠いと感じた。
若者特有の自己中心的なわがままさと、我慢や苦労を知らない傲慢さが時折、敬一の鼻についた。 
晶子にとって自分は、金のなる木と便利屋でしかないのか…腹立たしくなることもあった。

しかし念願の晶子の肢体を目の当たりにして、敬一の理性をぐらついた。

「ううん、若い人は嫌い。女を母親と勘違いして、甘えたり、守って貰おうとする男ばっかり、私は頼れる年上の男の人が好きなの」

晶子は敬一の頭を両手で抱えると、豊かな乳房に押しつけた。
生温かい胸の谷間は、底無し沼のようにどこまでも柔らかい。

甘ったるい晶子の肌の匂いが鼻孔に充満し、脳神経を麻痺させる。
敬一はいけないと思いながらも、固くそそり立った乳首を転がし、凝縮した乳暈を舌先でなぞっていた。

「あん」

晶子の体が敬一の腕の中で、小さく震えて弓形に反った。
白く蠢く魔性の肢体が、敬一を愛欲の世界に引き摺り込んでいく。

「ああ、いい」

晶子は敬一の愛撫に下半身を捩った。
ウエストからヒップにかけての緩やかな白い曲線が、男の征服欲を掻き立てる。

敬一は晶子をうつ伏せにした。
細身の裸身に小高く盛り上がったヒップが艶かしい。

真っ白な双丘を撫でると、金色の産毛がビロードのような感触を掌に伝える。
敬一はそっと指先を双丘の谷間に滑らせて、その奥に待つ熱い泉を捉えようとした。

「ねえ、私と結婚してくれるの?」

晶子は両脚をしっかりと閉じ、振り向いて潤んだ瞳で敬一を見た。
その欲情を促す妖しい輝きに、敬一の理性は跡形もなく消え去った。

(こんなに素晴らしい体は初めてだ。この肉体を独占できるのなら、結婚も悪くないかもしれない。女は男で変わるものだ。確かに今はわがまま放題の晶子だが、結婚すれば落ち着いて良妻に変わるかもしれない。 それに仕事より家庭を選ぶ古風な女なんて、今時滅多にお目にかかれないし…)

敬一は晶子の女肉をこの手にできれば、他に何もいらないと思った。

「結婚しよう」

「それならいいわ」

晶子はゆっくりと両脚を開いた。
花に導かれる蝶のように、敬一はふらふらと晶子の肢体に覆い被さった。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第七章

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(七)

「ご近所や翔太の友達のお母さんにも、夫がリストラされたなんて、恥ずかしくて話もできなないのよ」

カウンターから立ち上がり、敬一の目の前に立った晶子が、苛立った口調で言う。

結婚してからも晶子の性格は変わらなかった。
専業主婦として必要最低限の家事はする。

しかしそれが終われば、後は夫に干渉されない自由な時間だった。
晶子は独身時代にも増して、勝手気儘に振る舞った。

晶子の趣味は多彩だった。
平日はピアノ、絵画、エアロビ、英会話などの教室に通い多忙を極め、休日も友人たちとテニスやゴルフ、スキーなどに出かけ、家にはほとんどいなかった。

晶子にとって趣味は、自分の才能を深める楽しみではなく、自分を飾るアクセサリーに他ならなかった。
さらには、深夜まで友達と赤坂や六本木を闊歩し、時には敬一を一人残して海外旅行へ出かけたりもした。

(結局、晶子にとって結婚は、自分の生活を保証する手段でしかなかったのだ)

敬一は失望した。
彼が想い描いていた家庭の団欒など絵空事だった。
晶子は妻というよりも、有料で家事とセックスをさせてくれる契約愛人に似ていた。

しかし敬一は遊びたい盛りの若い妻を娶ったあきらめと、己の包容力を疑われたくない一心で、晶子のわがままを許した。

失望とあきらめは隠しようがなかったが、それでも晶子を愛していたからこその行動だったかもしれない。

やがて晶子は妊娠した。
嫌がる晶子を拝み倒しての子づくりだった。

子供の出産で、晶子の性格が変わることを敬一は期待した。
予想に違わず、晶子は育児に追われて趣味と遊びを控えざるを得なかった。

晶子は日々の育児の辛さを敬一にあたったが、妻が家庭に居てくれる安らぎに比べれば、愚痴や八つ当たりなど敬一は苦にもならなかった。

だが敬一が担当する新製品に陰りが見え、その責任を取らされる形で将来の見えない新規事業部へ異動させられた頃、突然晶子は翔太の教育に力を入れ始めた。
きっかけは近所の主婦仲間の一人が、お受験のために子供を塾に入れたことだった。

瞬く間にお受験熱は広がった。
「翔太のため」と口ぐせのように言い、せっせと塾に通わせた。

しかし晶子のお受験の本当の理由は、夫の将来に見切りをつけたからだと敬一は直感した。
夫の出世が見込めないなら、晶子の将来を保証するのは子供をおいて他ならないと判断したのだろう。
翔太が成人するまでの収入の確保、晶子の夫への期待はそれだけになっていた。

つづく…

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『妻の娼婦像』  第八章

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(八)

晶子の愚痴はなおも続いている。

「昔約束してくれたことを覚えてる?結婚したら、晶子も働かたりしない。好きなことをして暮らせばいいって」

「それはおまえが仕事なんかしたくないと言うから…」

「でもそれが結婚の条件だったでしょう?もういいわ、今更愚痴を言っても始まらないし、あなたが頼りにならないのなら、翔太のために私がパートで働くわ」

敬一は妻の思わぬ提案に、その真意を探りかねた。

「働くって、おまえ…」

「仕方ないでしょ。どうせあなたに仕事が見つかっても、昔ほどの給料は貰えないんじゃないの?だったら翔太の大学を出るまで私が働かなきゃならないでしょう」

敬一は妻の方針転換をいぶかったが、しかしすぐにその疑念を打ち消した。
家のローンと教育費だけなら、再就職先を選り好みしなくても、質素に生活すればなんとか払っていけるはずだ。

だが、晶子の自由になる金はない。
おそらく晶子はそれが耐えられないのだろう。
だが、たとえそういうことであっても、働くことによって金を稼ぐことの厳しさを知れば、晶子の甘えも治るかもしれない。

「しかし仕事のあてはあるのか?」

敬一はふと心配になった。
晶子に地道なパートが勤まるのだろうか?
晶子の性格と美貌からすれば、スナックのホステスでもやりかねない。

「ええ、近所で私にもできそうな仕事を見つけてきたの。それより人の仕事を心配するぐらいなら自分の心配をしたら?」

晶子は冷たく言い放った。
そして無能は夫を詰る妻の愚痴はこの後も延々と続いた。

だが晶子が働く決心をしてくれたことに、敬一は感謝していた。
それは家計の助けになることは勿論、自分勝手な晶子が初めて家庭の危機を救おうとしているからだった。

(禍転じて福となすか)

もしリストラされなければ、敬一は晶子と結婚したことを一生後悔していたかもしれない。
だが家庭が危機に直面することで、晶子が変わろうとしている。

家庭を守る妻として、子を守る母として、その自覚を持ちつつあるのだ。
敬一のリストラも、長い目で見れば大きな収穫になるかもしれない。

敬一は晶子の口撃を浴びながら、幾分心の安らぎを予感していた。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第九章

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(九)

晶子のパート勤めが始まった。
仕事先は近所に住む画家、高松省三の家だった。

高松省三とは敬一も何度か道で擦れ違ったことがある。
長髪を後ろに束ねて口髭を蓄えているが、背が低い上に腹が出ているので、とても芸術家には見えなかった。
また脂ぎった赤ら顏には、六十歳近いとは思えない精力的な雰囲気が漂っていた。

美術に疎い敬一は知らなかったが、晶子に聞いた話では、個展を中心に活躍している有名な洋画家らしい。
その言葉通り、敬一が目にした高松の家は、周囲の建売りの家とは明らかに違っていた。

住宅地から少し離れた広い敷地に、アトリエと住宅を兼ねた立派な洋館が、深い竹林に囲まれてひっそりと建っていた。
いくら便の悪い郊外とはいえ、相当な資産がなければあれだけの住宅は買えないだろうと敬一は羨んだ。

高松はその邸宅で、近所の主婦や子供を集めて絵を教えていた。
晶子のその教室の生徒の一人である。

晶子の話では、金儲けのために教室を開いているのではなく、孤独な作業の多い画家の気晴らしだという。
若い頃連れ合いを亡くし、後添いを貰わなかった寂しさの慰めでもあるらしい。

晶子は仕事の内容をこう語っていた。

「高松先生にあなたのリストラを話したら、助手をしてくれないかって誘われたのよ」

「画家の助手って?」

「高松先生は一人暮らしでしょ。今までは他人に任せられなくて、ご自分でいろいろやってらっしゃたそうなんだけど、歳を取るにつれて、炊事とか洗濯が辛くなってきたんですって。だから身の回りの世話をしてくれる人を探されていたの」

「住み込みか?」

「まさか。午前中と夕方だけのパートよ。これなら翔太にも寂しい思いをさせないでしょう?」

敬一は頷いた。
画家の助手と言われて驚いたが、実際は家政婦のようなものだろう。
近所での仕事なら自由がきくし、晶子にも勤まりそうだと思った。

「いいんじゃないかな」

「いいも悪いもないでしょう?あなたがしっかりしないから、私が働かなくてはならないのよ。本当に無責任な人ね」

晶子のキツイ言葉遣いが、再び敬一を不安にした。
今まで美貌を生かしたコンパニオンのアルバイトしか経験のない晶子が、地道なパートを続けることができるのだろうか。

晶子は敬一が口にしたそんな心配を、「先生は優しいから大丈夫」と意にも介さなかった。
金を払って習い事をする場合、先生も生徒に遠慮がある。
しかし優しい先生も雇主となれば別であろう。 

特に芸術家は気難しいに違いない。
わがままな晶子と気難しい画家では、すぐに喧嘩別れともなりかねないのではないか。
敬一は一株の不安を抱きながら、晶子の働く様子を見守ることにした。

つづく…

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『妻の娼婦像』 第十章

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(十)

晶子の生活が変わった。
朝、朝食をつくり翔太を学校へ送ると、その足で高松の家に向かう。

午前中、高松の家で朝食と昼食を用意して、空いた時間で広い家の掃除をする。
午後は家に戻って家事を済ませ、翔太の迎えに出かける。
夕方になると再び高松の家で夕食の支度をして、次は家の食事にとりかかるといった具合である。

土曜と日曜は基本的に休みで、高松が国内や海外へ製作に出かける時も休みが貰える。
しかし高松の家と自宅の家事を両方こなすのはなかなか大変なようだった。

「先生がわがままで疲れるわ。折角つくった食事でも、気にいらないと全く手をつけないんだから。頭に来ちゃう」

最初の頃、晶子はよく敬一を恨めしそうな顔で睨んで愚痴をこぼした。

「この間なんか、アトリエが散らかっていたから、親切心で掃除したら怒鳴られちゃったわ。ちょっとカンパスの位置を動かしただけなのに」

敬一は専ら妻の聞き役に回り、慰めるのが仕事になった。

「時々私に描きかけの絵を見せて、ヴァルールがどうのこうの、マチエールがどうのこうの、そんなの私にわかるわけないのに、くどくど説明するのよ。疲れちゃうわ」

「あ〜あ、働くのって大変ね。いつまで私にこんな仕事をさせる気なの?あなた、早くいい再就職先を見つけてよ」

そんなことをこぼしながらも、晶子は休むことなく画家の家へ通い、パート勤めを続けた。

一カ月もすると慣れてきたのか、晶子は敬一に文句を言わなくなった。
家事の他にも、高松の仕事の手伝いをするようになったのだという。
画材の用意と後かたづけ、モデルの世話等、家事以外に画家の助手として仕事を任されて、晶子も面白くなってきたのだろう。

個展の準備が忙しいと、午後や土日も高松の家へ出かけることが多くなった。
そして仕事がまだ見つからない敬一が、逆に家事や翔太の送り迎えをさせられるはめになった。

そんなある日、探し物があって押入れの中を調べていると、奥の方に高価なブランド品のバックや靴が積まれているのに敬一は気がついた。
勿論、敬一が買ってやったものではない。
しかも埃を被っていない最新モードである。

(一体これは…?)

リストラされてからというもの、敬一はブランド品を買えるような金を晶子に渡したことがなかった。
またパートの給料ではとても手が出せない代物である。

(男でもいるのか?)

敬一は顔から血の気が失せていくのを感じながら、押入れからブランド品を全て掻き出した。全部で十点もあった。更にブランド品の陰に隠れていた大きな紙袋も見つけた。
紙袋を開けると、中から額縁に入った一枚の絵が出てきた。

(こ、これは?)

押入れに隠されていた絵は裸婦像だった。 
薄い暖色の背景の中に、両腕を頭の後ろで組んだ女の上半身が、淡いパステルで写実的に描かれている。
こんもりと形の良い乳房とくびれたウエストの形に敬一は見覚えがあった。

(まさか…)

改めて絵のモデルの顔をじっくりと見た。妻の晶子だった。
絵の中の晶子は敬一の視線を避けるように、澄ました顔で斜め前を見ている。
そしてその絵の隅には、〈S.TAKAMATSU〉とサインが記されていた。

つづく…

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theme : 本格官能小説 
genre : アダルト

プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
※ 小説を読まれる方へ・・・   更新記事は新着順に表示されますので、小説を最初からお読みになりたい方は、各カテゴリーから選択していただければ、第一章からお読みいただけます。
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