『妻の娼婦像』 第七章
『妻の娼婦像』
FC2 Blog Ranking
(七)
「ご近所や翔太の友達のお母さんにも、夫がリストラされたなんて、恥ずかしくて話もできなないのよ」
カウンターから立ち上がり、敬一の目の前に立った晶子が、苛立った口調で言う。
結婚してからも晶子の性格は変わらなかった。
専業主婦として必要最低限の家事はする。
しかしそれが終われば、後は夫に干渉されない自由な時間だった。
晶子は独身時代にも増して、勝手気儘に振る舞った。
晶子の趣味は多彩だった。
平日はピアノ、絵画、エアロビ、英会話などの教室に通い多忙を極め、休日も友人たちとテニスやゴルフ、スキーなどに出かけ、家にはほとんどいなかった。
晶子にとって趣味は、自分の才能を深める楽しみではなく、自分を飾るアクセサリーに他ならなかった。
さらには、深夜まで友達と赤坂や六本木を闊歩し、時には敬一を一人残して海外旅行へ出かけたりもした。
(結局、晶子にとって結婚は、自分の生活を保証する手段でしかなかったのだ)
敬一は失望した。
彼が想い描いていた家庭の団欒など絵空事だった。
晶子は妻というよりも、有料で家事とセックスをさせてくれる契約愛人に似ていた。
しかし敬一は遊びたい盛りの若い妻を娶ったあきらめと、己の包容力を疑われたくない一心で、晶子のわがままを許した。
失望とあきらめは隠しようがなかったが、それでも晶子を愛していたからこその行動だったかもしれない。
やがて晶子は妊娠した。
嫌がる晶子を拝み倒しての子づくりだった。
子供の出産で、晶子の性格が変わることを敬一は期待した。
予想に違わず、晶子は育児に追われて趣味と遊びを控えざるを得なかった。
晶子は日々の育児の辛さを敬一にあたったが、妻が家庭に居てくれる安らぎに比べれば、愚痴や八つ当たりなど敬一は苦にもならなかった。
だが敬一が担当する新製品に陰りが見え、その責任を取らされる形で将来の見えない新規事業部へ異動させられた頃、突然晶子は翔太の教育に力を入れ始めた。
きっかけは近所の主婦仲間の一人が、お受験のために子供を塾に入れたことだった。
瞬く間にお受験熱は広がった。
「翔太のため」と口ぐせのように言い、せっせと塾に通わせた。
しかし晶子のお受験の本当の理由は、夫の将来に見切りをつけたからだと敬一は直感した。
夫の出世が見込めないなら、晶子の将来を保証するのは子供をおいて他ならないと判断したのだろう。
翔太が成人するまでの収入の確保、晶子の夫への期待はそれだけになっていた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る
FC2 Blog Ranking
(七)
「ご近所や翔太の友達のお母さんにも、夫がリストラされたなんて、恥ずかしくて話もできなないのよ」
カウンターから立ち上がり、敬一の目の前に立った晶子が、苛立った口調で言う。
結婚してからも晶子の性格は変わらなかった。
専業主婦として必要最低限の家事はする。
しかしそれが終われば、後は夫に干渉されない自由な時間だった。
晶子は独身時代にも増して、勝手気儘に振る舞った。
晶子の趣味は多彩だった。
平日はピアノ、絵画、エアロビ、英会話などの教室に通い多忙を極め、休日も友人たちとテニスやゴルフ、スキーなどに出かけ、家にはほとんどいなかった。
晶子にとって趣味は、自分の才能を深める楽しみではなく、自分を飾るアクセサリーに他ならなかった。
さらには、深夜まで友達と赤坂や六本木を闊歩し、時には敬一を一人残して海外旅行へ出かけたりもした。
(結局、晶子にとって結婚は、自分の生活を保証する手段でしかなかったのだ)
敬一は失望した。
彼が想い描いていた家庭の団欒など絵空事だった。
晶子は妻というよりも、有料で家事とセックスをさせてくれる契約愛人に似ていた。
しかし敬一は遊びたい盛りの若い妻を娶ったあきらめと、己の包容力を疑われたくない一心で、晶子のわがままを許した。
失望とあきらめは隠しようがなかったが、それでも晶子を愛していたからこその行動だったかもしれない。
やがて晶子は妊娠した。
嫌がる晶子を拝み倒しての子づくりだった。
子供の出産で、晶子の性格が変わることを敬一は期待した。
予想に違わず、晶子は育児に追われて趣味と遊びを控えざるを得なかった。
晶子は日々の育児の辛さを敬一にあたったが、妻が家庭に居てくれる安らぎに比べれば、愚痴や八つ当たりなど敬一は苦にもならなかった。
だが敬一が担当する新製品に陰りが見え、その責任を取らされる形で将来の見えない新規事業部へ異動させられた頃、突然晶子は翔太の教育に力を入れ始めた。
きっかけは近所の主婦仲間の一人が、お受験のために子供を塾に入れたことだった。
瞬く間にお受験熱は広がった。
「翔太のため」と口ぐせのように言い、せっせと塾に通わせた。
しかし晶子のお受験の本当の理由は、夫の将来に見切りをつけたからだと敬一は直感した。
夫の出世が見込めないなら、晶子の将来を保証するのは子供をおいて他ならないと判断したのだろう。
翔太が成人するまでの収入の確保、晶子の夫への期待はそれだけになっていた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に戻る