『風媒花』・・・第一章
風媒花(ふうばいか)は、花粉媒介を風に頼る形の花のことである。
『風 媒 花』
第一章
晩秋の日曜日、夕闇が迫る横浜中華街は、家族連れや恋人達でごった返していた。
善鄰門や関帝廟が異国の雰囲気を漂わせ、蒸かした肉饅の匂いが路地裏まで立ち籠めている。
久喜知彦は、妻の清子と、雑踏を掻き分けて広東料理の店へ逃げ込んだ。
「六時に予約している久喜ですが」
「四名でご予約頂いている久喜様ですね」
真っ赤なチャイナ服を着た店員が、二階の小さな個室へ知彦と清子を案内してくれた。
「ちょっと早過ぎましたかね」
清子はテーブルに着くや、どこか落ち着かない表情で時計を気にした。
「そわそわするなって。十五分前ならちょうどいい時間だ。先にビールでも貰おうか」
そう清子をたしなめた知彦は、わざと鷹揚に椅子へ腰掛けて店員を呼んだ。
だがその実、気も漫ろなのは清子よりも知彦の方だった。
運ばれてきたビールをつかみ損ね、うっかりテーブルの上に転がした。
「あらあら・・あなたも落ち着いて」
清子はクスクス笑いながら、こぼれたビールをおしぼりで拭いた。
今夜は、二十五歳になる娘の香織と、中華街で食事をする約束になっていた。
つきあっている男性を紹介したいと言うのだ。
香織に彼氏がいるのは薄々知っていたが、改まって顔を合わせるとなると、さすがに親として緊張を隠せなかった。
つづく・・・
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