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『風媒花』・・・第三章

『風 媒 花』
  第三章

昨夜香織は知彦へ自慢げに話した。

「彼ね、パパに似ているんだ」

リップサービスかもしれないが、父親としては内心悪い気がしなかった。
定職につかない若者が多い時代、清子が言う通り、香織には男を見る目があるのかもしれない。
知彦はビールをあおった。

(しかしまだ油断は禁物だ)

長年法務畑を歩いてきた知彦は、おいしい契約話ほど、大きな落とし穴があるのを知っている。
そんな知彦の不安などお構いなしに、清子は無邪気に喋り続けた。

「でも香織のおかけで、今日は久しぶりにあなたとデートできたわ」

中華街へ来る前に、知彦と清子は港の見える丘公園と外人墓地へ足を延ばした。
二人だけで観光スポットを巡るのは、子供が生まれてからは初めてのことだった。
清子は知彦の耳元へ囁いた。

「うふふ、あなたと初めて会津でデートした日のことを思い出しちゃった」

清子は福島県会津若松市の出身で、忘れもしない三十二年前、その地で二人は初めて淡い恋に落ちたのだった。

「私にも男を見る目があったのかしら?」

惚気た表情の清子は、艶っぽい目線を知彦へ送ってきた。
つづく・・・
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