『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十八)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(十八)
降矢木が口を開いた。
「しかし昭和六十年にタエさんが亡くなった時点で、麻美さんを何故引き取らなかったんですか?」
「・・・・」
「あなたは仕方なかったと綺麗事を言うが、実の娘を養護施設に入れてまで、サンカ共同体を守らなければならなかったのですか?」
「・・・・」
「しかも今日まで手を差し延べず、必要に迫られて拉致する始末です。邪悪な宗教遊びに忙しかったなど虫が良過ぎます。何故あなたは麻美さんを放ったらかしにしてまで、天神会を組織して拡大しなければならなかったのですか?」
乱裁は苦り切った表情を降矢木に向けた。
「・・若造よ。わしが狂っているとでも言いたいのか?」
「あなたは愚かな人間ではありません。娘を捨て、違法な大麻に手を出しても、天神会に心血を注ぐ理由があるはずです」
「理由か・・」
「私にはわからない。天神会という宗教団体が何を目指しているのか。危ない橋を渡ってまで、何故ホームレスへの慈善事業をしなければならないのか・・」
依然として大聖天堂は静まり返っている。
乱裁は暫し俯いてから、降矢木ではなく金治へ問いかけた。
「金治よ、昭和五十八年二月五日、横浜の山下公園で起きた事件を覚えているか?」
「五十八年ですか・・私が五十一歳の時でしたか・・ホームレス・・?」
「・・あっ、そうだ。山下公園で浮浪者が中学生の集団に殺された事件がありました」
降矢木がそう言うと、金治は乱裁の顔をじっと見つめた。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト