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心の闇⑤ 墓標(その1)…降矢木士朗

心の闇⑤ 墓標(その1)  降矢木士朗

見渡す限りの闇に、遠くホテル街の紅燈が妖しく浮かんでいました。

「先生、ここから船で島へ渡るみたいです」

路線バスを降りた月絵は小声で私の耳に囁きました。

「本当に行きたいのかい?」

「・・はい。母が若い頃に暮らした島を見ておきたいんです」

夏の夜に相応しくない青ざめた表情で月絵は頷きました。

M県W島。
大都市から遠く鄙びた漁村の対岸にその島はありました。

古くは女護ヶ島、今は売春島。
江戸時代から風待港として栄えた湾奥の小島には、荒々しい海の男達を慰める女達が集まり、往時は海上の遊郭として栄えたと言います。

そして現在も、表向きは家族向けの観光地を装いながら、本土から1Kmほど海に隔てられた別天地は、昔と変わらず、日常を忘れて女を抱きたい男達が訪れる桃源郷のままだと西日本出身の畠山君は教えてくれました。

所謂、悪所です。
しかし月絵は、天神会事件後、あれほど嫌っていたストリッパーだった母を知りたいと、養父である吉水金治からこのW島の存在を聞き出したのです。

「自殺した母は二十代前半の頃、この島から横浜へ流れてきたらしいの。先生、一緒に母がいたW島へ行ってくれませんか?」

語調こそ柔らかかったものの、カップル喫茶で失態を演じた私は、月絵の依頼を断ることができませんでした。
つづく…
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心の闇⑤ 墓標(その2)…降矢木士朗

心の闇⑤ 墓標(その2)  降矢木士朗

漁船に毛が生えたほどの渡し船が夜の海をW島へ向かいます。
わずか15分ほどで接岸した船着き場には、近代的なホテルが二三軒建ち並んでいました。

静かな海辺の保養地といった風情です。
ところが予約したホテルに入って私と月絵は吃驚しました。

学校の夏休みにもかかわらず家族連れは数えるほどで、団体旅行や一人の男客ばかりが目につきます。
そして派手な衣装をつけた頽廃的なコンパニオンが、ホテルのロビーを我が物顔で歩いています。

「先生・・」

前もって畠山君から男のパラダイスと聞いたものの、母の面影を募らせていた月絵は、その現実を見せられてショックを受けているようでした。
海を望む広い部屋に案内された私は、座卓に載った二つの湯のみを見て初めて気づきました。

「あれ、月絵君の部屋は?」

「・・・こ、この部屋しか空いていなかったんです」

窓辺にもたれた月絵は、顔を真っ赤にしてもじもじとしています。

「そうか・・・それなら仕方ないな」

一途な月絵の気持ちを知りつつも、彼女を幸せにする自信がない私は、ただ言葉を濁すしかありませんでした。
宿の食事は地元名産のアワビづくしです。
厭と言うほどアワビを堪能した私達は、夜の街へ出かけてみました。
つづく…
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心の闇⑤ 墓標(その3)…降矢木士朗

心の闇⑤ 墓標(その3)  降矢木士朗

島の夜は静かでした。
僅か100メートルしかないメインストリートには、あらゆる生活雑貨を売るよろず屋が店を開けていました。

島で唯一の商店だと言います。
よろず屋以外に通りを占拠しているのは数軒ある妖しいスナックです。

どうやら風俗目当ての客は、これらのスナックで女性を斡旋してもらうシステムのようです。
月絵が呆れた顔で話しかけてきました。

「先生、この島全体が風俗で生活しているみたいですね」

「うん、観光客を呼べるものなど島にはないからね。それなのにこれだけのホテルやスナックがあるんだから・・」

ウィキペディアで調べたところ、島の人口は300人ほどで、その多くが若年女性、しかもサービス業の従事者がほとんどだとあります。
おそらく近年増えている外国人女性はカウントされていないでしょうが、都市の歓楽街がミニチュア化されて、無理矢理自然溢れる漁村の島へ移転してきたような違和感がありました。

通りから細い路地が枝分かれして島中央の小高い山へと続いています。
私と月絵は一本の狭い路地を上ってみました。
すると山の中腹あたりに何棟ものアパートが現れたのです。

「これって全部女の子達の住まいなのかしら?」

部屋には明るいピンク色のカーテン、そして窓辺に花や縫いぐるみが置いてあります。

「そうだよ。ここが彼女達の住まいであるとともに仕事場でもあるんだ」

「仕事場?」

耳を澄ますと、男と女の会話や生々しい女の喘ぎ声が、静かな山間を伝って聞こえてきます。
月絵は驚いたようです。

「え、自分の部屋に客を入れるんですか?」

「ああ、ラブホテルなんか無い島だからね。コースによっては泊まらせることもあるそうだよ」

私はそう答えると、ピンク色のカーテンで仕切られた窓を見上げました。
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心の闇⑤ 墓標(その4)…降矢木士朗

心の闇⑤ 墓標(その4)  降矢木士朗

ホテルに戻った私は、部屋に入って内心どきっとしました。
和室に布団が並べて敷かれていました。
後から部屋へ入ってきた月絵も、顔を赤らめて立ち止ってしまいました。

「コホン、もう少し飲むか」

「・・はい」

私は部屋の隅へ追いやられた座卓に坐ると、照れ隠しで焼酎の水割りをぐいっと飲み干しました。
どのぐらい時間が経ったでしょうか、焼酎の瓶がほぼ底をついていました。
月絵はとろんとした瞳で私に意外なことを話し始めました。

「私、本当の私を見てもらいたくてこの島へ来たんです」

「・・本当の私?」

「先生がご存知の通り、自分に物凄くコンプレックスがあって・・淫らな仕事をしていた母の血が私には流れているんです」

「馬鹿だな、そんなこと気になどしない」

「先生は職業で人を判断したりしないのは知っています。でもそれは博愛の精神に似ています。だから一人の女性を深く愛することができないんじゃありませんか?」

「・・・・」

月絵は潤んだ瞳で私を見ました。

「先生は理想主義者です。純粋無垢なガラスの人形しか愛せないんです。傷だらけの生身の女が恐いんじゃありませんか?」

「・・・・」

「だから私、母が体を売っていたこの島なら、私の全てを先生に曝け出せると思って・・」

「・・・・」

月絵は着ているTシャツを捲り上げ・・・

「先生、先生っ!」

「・・・・」

酒で猛烈な睡魔に襲われた私は、月絵のキンキン声を子守唄に、深い眠りについてしまったのです。
つづく…
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心の闇⑤ 墓標(その5)…降矢木士朗

心の闇⑤ 墓標(その5)  降矢木士朗

翌朝、猛烈な二日酔いに苛まれながら、私は機嫌が悪い月絵を連れて散歩へ出かけました。
朝日が穏やかな海面を照らすW島には、昨夜の淫靡な雰囲気など微塵もありません。

昨夜通った海岸から入り組んだ路地を上ると、まだ娼婦達が眠るアパート群が見えてきました。
夜にはわかりませんでしたが、半ば廃墟と化した建物が多く目につきます。

おそらく娼婦達の数が減っているのでしょう。
今時、女性を求めてわざわざ辺鄙な島へ来る男などいないのかもしれません。

「夏草や 兵どもが 夢のあと」

紅街の寂れ果てた風景に、私は世の移ろいと儚さを感ぜずにはいられませんでした。
月絵は眼の下に隈をつくり、不貞腐れた顔で口をききません。

「いい加減、機嫌直したらどうだ?」

「別に・・」

女に恥を掻かせたことになるのでしょうか、寝たふりをしながら薄目で月絵の乳房はたっぷり拝ませてもらったのですが・・・

初心で一途な月絵です。
ならば尚更、夜の蝶が撒き散らす鱗粉にまみれた中年男が、純白で無垢な娘を穢すわけにはいかないのです。
しばらく山道を登ると、高台に並ぶ十数基の墓標に出くわしました。

「あら、お早い散歩ですね」

ぽつんと離れた苔生す墓標に手を合わせていた女性が、私達を見て声をかけてきました。
着物姿の美しい女性です。

「あ、昨日の仲居さん」

月絵に言われて私は胸につけたネームプレートに目を遣りました。

『××ホテル 高野雛子』

仲居より美人女将と言った風情の雛子は、暑くなってきた陽射しを避けて白い日傘を差しました。
つづく…
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心の闇⑤ 墓標(その6)…降矢木士朗

心の闇⑤ 墓標(その6)  降矢木士朗

月絵も墓地の片隅に置かれた粗末な墓標に手を合わせました。

「仲居さんはこの島のご出身なんですか?」

「いいえ、私はこの島に流れてきた女です。もう年ですから今は仲居の仕事をさせてもらっています」

「そ、そうだったんですか・・ではこのお墓は?」

「この島で死んでいった身寄りのない遊女達のお墓です」

花を手向ける人もいない墓が可哀想で、毎朝野辺の花を摘んで供えていると雛子さんは答えました。
月絵の大きな瞳が見る間に潤みます。

「私の母も・・若い頃、この島で働いていたそうです・・」

咽びながら月絵は、横浜で自ら命を断った母が、この島で娼婦をしていたことを打ち明けました。
雛子さんは朝日が煌めく海へ遠く目を遣りました。

「お母さんを恨んでいるのね?」

「そうかもしれません・・淫らな性に溺れて私を産み落とし、幼子を道連れに死んでいった母を・・でも・・」

言葉に詰まる月絵の背中に雛子さんはそっと手を置きました。

「私は亡くなった夫を愛し続けるために娼婦になったの。牢獄の島で死んでいった遊女達にもいろいろ事情があったと思うわ」

親に身売りされた女、借金を体で払う女、男に騙された女・・・この島へ渡った女達は、人に言えない業を背負って生きてきたと雛子さんは諭します。

「女が子供を残して命を断つなんて・・あなたはお母さんがどれほど苦しんでいたかをわかってあげないといけないわね」

「母の苦しみ・・」

雛子さんの言う通りかもしれません。
月絵の母が死を選ばなければならなかった理由は今もわからないのです。
日々悶え苦しむ苦界に身を沈めていたのかもしれません。

「先生!」

いきなり月絵は私に抱きつき、胸に額を当てて泣きじゃくり始めました。

「私・・自分のことばかりで・・母の苦しみなんか考えたことなかった・・」

月絵も子供の頃から苦労してきた娘です。
母を恨むことで、彼女自身の苦しみを乗り越えてきたのかもしれません。

私は月絵の肩を抱き、雛子さんに小さく会釈をしました。
雛子さんは静かに微笑むと、白い日傘を差しながら島の細い路地をゆっくりと下って行きました。
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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
『プリン』を読む

作 品 紹 介
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