心の闇⑤ 墓標(その6)…降矢木士朗
心の闇⑤ 墓標(その6) 降矢木士朗
月絵も墓地の片隅に置かれた粗末な墓標に手を合わせました。
「仲居さんはこの島のご出身なんですか?」
「いいえ、私はこの島に流れてきた女です。もう年ですから今は仲居の仕事をさせてもらっています」
「そ、そうだったんですか・・ではこのお墓は?」
「この島で死んでいった身寄りのない遊女達のお墓です」
花を手向ける人もいない墓が可哀想で、毎朝野辺の花を摘んで供えていると雛子さんは答えました。
月絵の大きな瞳が見る間に潤みます。
「私の母も・・若い頃、この島で働いていたそうです・・」
咽びながら月絵は、横浜で自ら命を断った母が、この島で娼婦をしていたことを打ち明けました。
雛子さんは朝日が煌めく海へ遠く目を遣りました。
「お母さんを恨んでいるのね?」
「そうかもしれません・・淫らな性に溺れて私を産み落とし、幼子を道連れに死んでいった母を・・でも・・」
言葉に詰まる月絵の背中に雛子さんはそっと手を置きました。
「私は亡くなった夫を愛し続けるために娼婦になったの。牢獄の島で死んでいった遊女達にもいろいろ事情があったと思うわ」
親に身売りされた女、借金を体で払う女、男に騙された女・・・この島へ渡った女達は、人に言えない業を背負って生きてきたと雛子さんは諭します。
「女が子供を残して命を断つなんて・・あなたはお母さんがどれほど苦しんでいたかをわかってあげないといけないわね」
「母の苦しみ・・」
雛子さんの言う通りかもしれません。
月絵の母が死を選ばなければならなかった理由は今もわからないのです。
日々悶え苦しむ苦界に身を沈めていたのかもしれません。
「先生!」
いきなり月絵は私に抱きつき、胸に額を当てて泣きじゃくり始めました。
「私・・自分のことばかりで・・母の苦しみなんか考えたことなかった・・」
月絵も子供の頃から苦労してきた娘です。
母を恨むことで、彼女自身の苦しみを乗り越えてきたのかもしれません。
私は月絵の肩を抱き、雛子さんに小さく会釈をしました。
雛子さんは静かに微笑むと、白い日傘を差しながら島の細い路地をゆっくりと下って行きました。
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「この島で死んでいった身寄りのない遊女達のお墓です」
花を手向ける人もいない墓が可哀想で、毎朝野辺の花を摘んで供えていると雛子さんは答えました。
月絵の大きな瞳が見る間に潤みます。
「私の母も・・若い頃、この島で働いていたそうです・・」
咽びながら月絵は、横浜で自ら命を断った母が、この島で娼婦をしていたことを打ち明けました。
雛子さんは朝日が煌めく海へ遠く目を遣りました。
「お母さんを恨んでいるのね?」
「そうかもしれません・・淫らな性に溺れて私を産み落とし、幼子を道連れに死んでいった母を・・でも・・」
言葉に詰まる月絵の背中に雛子さんはそっと手を置きました。
「私は亡くなった夫を愛し続けるために娼婦になったの。牢獄の島で死んでいった遊女達にもいろいろ事情があったと思うわ」
親に身売りされた女、借金を体で払う女、男に騙された女・・・この島へ渡った女達は、人に言えない業を背負って生きてきたと雛子さんは諭します。
「女が子供を残して命を断つなんて・・あなたはお母さんがどれほど苦しんでいたかをわかってあげないといけないわね」
「母の苦しみ・・」
雛子さんの言う通りかもしれません。
月絵の母が死を選ばなければならなかった理由は今もわからないのです。
日々悶え苦しむ苦界に身を沈めていたのかもしれません。
「先生!」
いきなり月絵は私に抱きつき、胸に額を当てて泣きじゃくり始めました。
「私・・自分のことばかりで・・母の苦しみなんか考えたことなかった・・」
月絵も子供の頃から苦労してきた娘です。
母を恨むことで、彼女自身の苦しみを乗り越えてきたのかもしれません。
私は月絵の肩を抱き、雛子さんに小さく会釈をしました。
雛子さんは静かに微笑むと、白い日傘を差しながら島の細い路地をゆっくりと下って行きました。
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