『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(十七)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(十七)
再び今。
乱裁道宗こと足立寛三は、ふっと苦渋の表情を浮かべた。
「仕方なかったんじゃ」
タエが産んだ娘、それが藤野麻美だった。
寛三にとっては唯一己の血を引く子供に他ならない。
集落を捨てて、妻子と都会で暮らすこともできただろう。
だが寛三は集落に残った。
愛した末に結ばれたわけではないが、従順に寛三の世話をする妻を裏切ることはできなかった。
それは集落のサンカ仲間とて同じだった。
集団農業と有機農法。寛三が提案した新しい試みに従う者達を見捨てるわけにはいかなかったのだ。
サンカの結束は固い。
世間から迫害視されてきた共同体は、生きるため山奥に姿を隠し、裏切り者を出さないために掟を厳格に定めた。
明治期からサンカは警察に犯罪予備軍として狙われてきた。
自らを守るために、彼等は人の通らない獣道を歩き、サンカ文字という暗号を通信の術として使った。
定住生活を始めた後も、かつてサンカであった正体を平地民に洩らせば、密かに仲間内から制裁をくわえられたと言う。
運命を同じくする共同体は、秘密結社さながらに、強い結束力を維持するための秩序を重視してきたのである。
この掟が寛三を箕面谷に縛りつけた。
寛三はタエと麻美を見守りつつも、球磨箕面谷に留まり、有機栽培の作物を人吉や八代市内へ販路拡大していった。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト