『風媒花』・・・第五章
『風 媒 花』
第五章
一九七五年、冬。
雪が多い北国には珍しく、会津盆地はその朝、灰色の雲の合間から所々青空が覗いていた。
だが昨日まで降り続いた雪は、下書きの水彩画のように、街並みからあらゆる色を失わせていた。
朝六時、南雲清子との待ち合わせまでまだ二時間あった。
知彦は、まだ人も疎らな市街を、雪に足を取られながら歩いた。
刺すような冷気に吐く息が白い。
除雪が行き届かない小道には、優に三十センチを超える雪が積もっている。
暖をとる喫茶店は開いておらず、知彦は時間つぶしに会津鶴ガ城へと足を延ばした。
大学生の貧乏一人旅である。
一泊の宿代を浮かすため、知彦は深夜上野発の夜行急行に乗った。
だが格安の周遊券で乗れる夜行急行は、朝五時過ぎには会津若松に到着してしまう。
硬いボックスシートでは熟睡など望むべくもなく、体力と時間があり余る大学生だけに許される旅だった。
鶴ガ城の深く積もった雪の中で、知彦は心引き締まる思いがした。
戊辰戦争は日本史で学んだ。
そんな活字だけの知識だが、この地に立つと、血の匂いとともに生々しく悲惨な戦場が蘇ってくる。
張りつめた早朝の冷気にそびえる天守閣を臨んで、勝ち目のない戦に挑んだ会津人の気質を思った。
凛として質実剛健、頑固一徹でとにかく真面目であると言う。
その評が事実であることを、知彦はこの地に立って初めて知った。
つづく・・・
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一九七五年、冬。
雪が多い北国には珍しく、会津盆地はその朝、灰色の雲の合間から所々青空が覗いていた。
だが昨日まで降り続いた雪は、下書きの水彩画のように、街並みからあらゆる色を失わせていた。
朝六時、南雲清子との待ち合わせまでまだ二時間あった。
知彦は、まだ人も疎らな市街を、雪に足を取られながら歩いた。
刺すような冷気に吐く息が白い。
除雪が行き届かない小道には、優に三十センチを超える雪が積もっている。
暖をとる喫茶店は開いておらず、知彦は時間つぶしに会津鶴ガ城へと足を延ばした。
大学生の貧乏一人旅である。
一泊の宿代を浮かすため、知彦は深夜上野発の夜行急行に乗った。
だが格安の周遊券で乗れる夜行急行は、朝五時過ぎには会津若松に到着してしまう。
硬いボックスシートでは熟睡など望むべくもなく、体力と時間があり余る大学生だけに許される旅だった。
鶴ガ城の深く積もった雪の中で、知彦は心引き締まる思いがした。
戊辰戦争は日本史で学んだ。
そんな活字だけの知識だが、この地に立つと、血の匂いとともに生々しく悲惨な戦場が蘇ってくる。
張りつめた早朝の冷気にそびえる天守閣を臨んで、勝ち目のない戦に挑んだ会津人の気質を思った。
凛として質実剛健、頑固一徹でとにかく真面目であると言う。
その評が事実であることを、知彦はこの地に立って初めて知った。
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