『妻の娼婦像』 第八章
『妻の娼婦像』
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(八)
晶子の愚痴はなおも続いている。
「昔約束してくれたことを覚えてる?結婚したら、晶子も働かたりしない。好きなことをして暮らせばいいって」
「それはおまえが仕事なんかしたくないと言うから…」
「でもそれが結婚の条件だったでしょう?もういいわ、今更愚痴を言っても始まらないし、あなたが頼りにならないのなら、翔太のために私がパートで働くわ」
敬一は妻の思わぬ提案に、その真意を探りかねた。
「働くって、おまえ…」
「仕方ないでしょ。どうせあなたに仕事が見つかっても、昔ほどの給料は貰えないんじゃないの?だったら翔太の大学を出るまで私が働かなきゃならないでしょう」
敬一は妻の方針転換をいぶかったが、しかしすぐにその疑念を打ち消した。
家のローンと教育費だけなら、再就職先を選り好みしなくても、質素に生活すればなんとか払っていけるはずだ。
だが、晶子の自由になる金はない。
おそらく晶子はそれが耐えられないのだろう。
だが、たとえそういうことであっても、働くことによって金を稼ぐことの厳しさを知れば、晶子の甘えも治るかもしれない。
「しかし仕事のあてはあるのか?」
敬一はふと心配になった。
晶子に地道なパートが勤まるのだろうか?
晶子の性格と美貌からすれば、スナックのホステスでもやりかねない。
「ええ、近所で私にもできそうな仕事を見つけてきたの。それより人の仕事を心配するぐらいなら自分の心配をしたら?」
晶子は冷たく言い放った。
そして無能は夫を詰る妻の愚痴はこの後も延々と続いた。
だが晶子が働く決心をしてくれたことに、敬一は感謝していた。
それは家計の助けになることは勿論、自分勝手な晶子が初めて家庭の危機を救おうとしているからだった。
(禍転じて福となすか)
もしリストラされなければ、敬一は晶子と結婚したことを一生後悔していたかもしれない。
だが家庭が危機に直面することで、晶子が変わろうとしている。
家庭を守る妻として、子を守る母として、その自覚を持ちつつあるのだ。
敬一のリストラも、長い目で見れば大きな収穫になるかもしれない。
敬一は晶子の口撃を浴びながら、幾分心の安らぎを予感していた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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晶子の愚痴はなおも続いている。
「昔約束してくれたことを覚えてる?結婚したら、晶子も働かたりしない。好きなことをして暮らせばいいって」
「それはおまえが仕事なんかしたくないと言うから…」
「でもそれが結婚の条件だったでしょう?もういいわ、今更愚痴を言っても始まらないし、あなたが頼りにならないのなら、翔太のために私がパートで働くわ」
敬一は妻の思わぬ提案に、その真意を探りかねた。
「働くって、おまえ…」
「仕方ないでしょ。どうせあなたに仕事が見つかっても、昔ほどの給料は貰えないんじゃないの?だったら翔太の大学を出るまで私が働かなきゃならないでしょう」
敬一は妻の方針転換をいぶかったが、しかしすぐにその疑念を打ち消した。
家のローンと教育費だけなら、再就職先を選り好みしなくても、質素に生活すればなんとか払っていけるはずだ。
だが、晶子の自由になる金はない。
おそらく晶子はそれが耐えられないのだろう。
だが、たとえそういうことであっても、働くことによって金を稼ぐことの厳しさを知れば、晶子の甘えも治るかもしれない。
「しかし仕事のあてはあるのか?」
敬一はふと心配になった。
晶子に地道なパートが勤まるのだろうか?
晶子の性格と美貌からすれば、スナックのホステスでもやりかねない。
「ええ、近所で私にもできそうな仕事を見つけてきたの。それより人の仕事を心配するぐらいなら自分の心配をしたら?」
晶子は冷たく言い放った。
そして無能は夫を詰る妻の愚痴はこの後も延々と続いた。
だが晶子が働く決心をしてくれたことに、敬一は感謝していた。
それは家計の助けになることは勿論、自分勝手な晶子が初めて家庭の危機を救おうとしているからだった。
(禍転じて福となすか)
もしリストラされなければ、敬一は晶子と結婚したことを一生後悔していたかもしれない。
だが家庭が危機に直面することで、晶子が変わろうとしている。
家庭を守る妻として、子を守る母として、その自覚を持ちつつあるのだ。
敬一のリストラも、長い目で見れば大きな収穫になるかもしれない。
敬一は晶子の口撃を浴びながら、幾分心の安らぎを予感していた。
つづく…
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