『妻の娼婦像』 第十一章
『妻の娼婦像』
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(十一)
敬一は絵を紙袋に戻すと、よろよろとその場に座り込んだ。
(晶子が高松にヌードを…)
足が震えているのがわかった。
そして胃に込み上げるような鈍痛が走る。
晶子は家政婦のパートだけではなく、絵のモデルとして高松に裸体を晒していたのだ。
信じられないことだった。
絵の中の晶子の顔は、結婚を決めた十年前のあの夜と変わらぬ美しさだった。
それはあの時感じた幸福感を思い出させた。
晶子をまだ愛している。
失いたくない。
高松などに渡したくない。
敬一は妻の絵を見つめながらそう思った。
その夜、敬一は晶子を問い詰めた。
「別に隠していたわけじゃないわ。先生の作品にして戴くのは名誉なことなの。あの絵だって何十万円って価値がつくのよ」
晶子は少しも悪びれるところもなく、平然と開き直った。
「バカッ!人妻でありながら、どこの世界に夫以外の男に裸を見せる女がいるんだ」
「仕方ないでしょ。高松先生が描きたいって言うんだから」
「ふざけるな。お前は貞淑という言葉を知らないのか。妻としての自覚がないのかっ!」
敬一は激怒してテーブルを叩いた。
「何よ。働かないで女房のヒモみたいな生活しているあなたに、説教なんかされたくないわ。女房子供を養えないくせに、夫、夫って偉そうな顏しないでよ」
晶子は敢然と敬一に反発した。
敬一は言葉に詰まった。
今の敬一には妻を従わせるだけの力もないのだ。
「…しかし…」
「しかしじゃないでしょ。あなたは本当に器量が小さいわね。私は芸術のために脱いだのよ。高名な画家に妻の美しさを描いて貰えるなんて、名誉なことだと思わないの?」
敬一は二の句が継げなかった。
黙りこくってしまった夫を後目に、晶子は勝ち誇ったように部屋を出ようとした。
「う、浮気はしていないだろうな?」
敬一の声は惨めにも裏返っていた。
「馬鹿ね。男ってそんなことしか考えないんだから。高松先生はもう六十歳よ。浮気なんかするわけないでしょう」
晶子は薉むような視線を残し、席を立った。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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敬一は絵を紙袋に戻すと、よろよろとその場に座り込んだ。
(晶子が高松にヌードを…)
足が震えているのがわかった。
そして胃に込み上げるような鈍痛が走る。
晶子は家政婦のパートだけではなく、絵のモデルとして高松に裸体を晒していたのだ。
信じられないことだった。
絵の中の晶子の顔は、結婚を決めた十年前のあの夜と変わらぬ美しさだった。
それはあの時感じた幸福感を思い出させた。
晶子をまだ愛している。
失いたくない。
高松などに渡したくない。
敬一は妻の絵を見つめながらそう思った。
その夜、敬一は晶子を問い詰めた。
「別に隠していたわけじゃないわ。先生の作品にして戴くのは名誉なことなの。あの絵だって何十万円って価値がつくのよ」
晶子は少しも悪びれるところもなく、平然と開き直った。
「バカッ!人妻でありながら、どこの世界に夫以外の男に裸を見せる女がいるんだ」
「仕方ないでしょ。高松先生が描きたいって言うんだから」
「ふざけるな。お前は貞淑という言葉を知らないのか。妻としての自覚がないのかっ!」
敬一は激怒してテーブルを叩いた。
「何よ。働かないで女房のヒモみたいな生活しているあなたに、説教なんかされたくないわ。女房子供を養えないくせに、夫、夫って偉そうな顏しないでよ」
晶子は敢然と敬一に反発した。
敬一は言葉に詰まった。
今の敬一には妻を従わせるだけの力もないのだ。
「…しかし…」
「しかしじゃないでしょ。あなたは本当に器量が小さいわね。私は芸術のために脱いだのよ。高名な画家に妻の美しさを描いて貰えるなんて、名誉なことだと思わないの?」
敬一は二の句が継げなかった。
黙りこくってしまった夫を後目に、晶子は勝ち誇ったように部屋を出ようとした。
「う、浮気はしていないだろうな?」
敬一の声は惨めにも裏返っていた。
「馬鹿ね。男ってそんなことしか考えないんだから。高松先生はもう六十歳よ。浮気なんかするわけないでしょう」
晶子は薉むような視線を残し、席を立った。
つづく…
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