『妻の娼婦像』 第五章
『妻の娼婦像』
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(五)
三十歳当時、敬一は出世コースのトップを走っていた。
社運を賭けた新製品のマネージャーに若くして抜擢され、その前途は洋々たる希望に満ちていた。
全国規模の新製品発表会が企画され、当然敬一も運営の中核に参加していた。
その発表会のコンパニオンに応募してきたのが、現役の女子大生の晶子だった。
晶子は美しく、まだどこかあどけなさも残した顔立ちをしていた。
くりっとしたつぶらな瞳が、無邪気で清純な少女を思わせた。
反面、その肢体は、そのあどけなさからは想像できない豊満さを備えていた。
少女と大人の女の狭間に揺れる妖しさが、晶子の不思議な魅力を醸していた。
すぐに敬一は晶子の魅力の虜になった。
当時、敬一は三つ年上の彼女が社内にいた。
彼女は姉さん女房タイプで、敬一が新入社員の頃から何かと面倒を見てくれていた。
器量は大して良くないが、献身的に尽くしてくれる彼女と敬一は結婚するつもりでいた。
しかし晶子との出会いが、敬一の身を固める決意を揺るがせた。
若く美しい晶子を掌中に収めたい。
心やさしい彼女を捨てさせるほど、晶子の美貌は敬一の血を騒がせた。
敬一は発表会が終わると晶子をデートに誘った。
幸い晶子には恋人がいなかった。
敬一は貯金をはたいて晶子の機嫌をとった。
彼女の好みの高価なブランド品やアクセサリー、贅沢な食事、送り迎えするために外車も買った。
若く気位の高い晶子を落とすには欠かせない投資だった。
それから半年後、横浜港を一望できる高台のホテルに晶子と初めて泊まった。
港に面した大きな窓をもつ豪窘な部屋で、敬一はベッドに横になって晶子がバスルームから戻って来るのを待った。
満願成就の時を迎えて、敬一は少年のように胸をときめかせていた。
シャワーをあびてバスローブを一枚羽織っただけの晶子が、敬一の目の前に現れた。
「綺麗ね」
宝石をちりばめたような港の夜景が映る窓に、晶子は目を奪われていた。
肩まであるウェーブのかかった髪が部屋の明かりに艶めき、すっと長く伸びた真っ白い両脚が眩しい。
この半年で、晶子はさらに美しくなり、最初に会った頃のあどけなさも消え、その肢体に相応しい大人の女の顔になっていた。
晶子は敬一の視線を意識しながら、ゆっくりとベッドに潜り込んだ。
そして敬一の背中に両手を回して口唇を重ねてきた。
「ねえ、私と結婚してくれない?」
耳元で晶子が呟いた言葉に敬一は吃驚した。
「私、来年大学を卒業したら、あなたのお嫁さんになりたいの」
柳眉とバランスのとれた愛くるしい瞳が、じっと敬一の顔を射貫いている。
「けっ、結婚って、まだ若いのに?」
一方的な晶子からの求婚に、敬一は戸惑った。
晶子は恋愛の対象としてはこの上ないが、結婚となると話は別である。
この先の長い人生を託す女を、容姿やスタイルだけで選ぶほど敬一は愚かではなかった。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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三十歳当時、敬一は出世コースのトップを走っていた。
社運を賭けた新製品のマネージャーに若くして抜擢され、その前途は洋々たる希望に満ちていた。
全国規模の新製品発表会が企画され、当然敬一も運営の中核に参加していた。
その発表会のコンパニオンに応募してきたのが、現役の女子大生の晶子だった。
晶子は美しく、まだどこかあどけなさも残した顔立ちをしていた。
くりっとしたつぶらな瞳が、無邪気で清純な少女を思わせた。
反面、その肢体は、そのあどけなさからは想像できない豊満さを備えていた。
少女と大人の女の狭間に揺れる妖しさが、晶子の不思議な魅力を醸していた。
すぐに敬一は晶子の魅力の虜になった。
当時、敬一は三つ年上の彼女が社内にいた。
彼女は姉さん女房タイプで、敬一が新入社員の頃から何かと面倒を見てくれていた。
器量は大して良くないが、献身的に尽くしてくれる彼女と敬一は結婚するつもりでいた。
しかし晶子との出会いが、敬一の身を固める決意を揺るがせた。
若く美しい晶子を掌中に収めたい。
心やさしい彼女を捨てさせるほど、晶子の美貌は敬一の血を騒がせた。
敬一は発表会が終わると晶子をデートに誘った。
幸い晶子には恋人がいなかった。
敬一は貯金をはたいて晶子の機嫌をとった。
彼女の好みの高価なブランド品やアクセサリー、贅沢な食事、送り迎えするために外車も買った。
若く気位の高い晶子を落とすには欠かせない投資だった。
それから半年後、横浜港を一望できる高台のホテルに晶子と初めて泊まった。
港に面した大きな窓をもつ豪窘な部屋で、敬一はベッドに横になって晶子がバスルームから戻って来るのを待った。
満願成就の時を迎えて、敬一は少年のように胸をときめかせていた。
シャワーをあびてバスローブを一枚羽織っただけの晶子が、敬一の目の前に現れた。
「綺麗ね」
宝石をちりばめたような港の夜景が映る窓に、晶子は目を奪われていた。
肩まであるウェーブのかかった髪が部屋の明かりに艶めき、すっと長く伸びた真っ白い両脚が眩しい。
この半年で、晶子はさらに美しくなり、最初に会った頃のあどけなさも消え、その肢体に相応しい大人の女の顔になっていた。
晶子は敬一の視線を意識しながら、ゆっくりとベッドに潜り込んだ。
そして敬一の背中に両手を回して口唇を重ねてきた。
「ねえ、私と結婚してくれない?」
耳元で晶子が呟いた言葉に敬一は吃驚した。
「私、来年大学を卒業したら、あなたのお嫁さんになりたいの」
柳眉とバランスのとれた愛くるしい瞳が、じっと敬一の顔を射貫いている。
「けっ、結婚って、まだ若いのに?」
一方的な晶子からの求婚に、敬一は戸惑った。
晶子は恋愛の対象としてはこの上ないが、結婚となると話は別である。
この先の長い人生を託す女を、容姿やスタイルだけで選ぶほど敬一は愚かではなかった。
つづく…
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