『マネキン妻の懊悩』(六)
『マネキン妻の懊悩』(六)
「妄想の囲炉裏端」紅殻格子の呟き入口
FC2 R18官能小説
六
受付は人の目に晒されるのが仕事である。
そうと割り切っていても、女を値踏みする露骨な男の視線に、嫌悪感を抱かない受付嬢はいない。
中にはそれが元で、視線恐怖症や対人恐怖症を患う受付嬢もいるらしい。
ところが美咲の場合、鼻の下を伸ばす男達の視線が、逆に心地良い刺激になっていた。
(そんなに私の裸が見たいの・・)
前屈みにコーヒーを置きながら、美咲は挑発するようにヒップを突き出した。
表情こそ変わらないが、邪欲を増した森島の目が美咲に襲いかかってくる。
それはあのデパートで、イヴの裸身に見入っていた男達と同じ目だった。
芦川にコーヒーを出し終えた美咲は、何ごともなかったように、扉の前で深く一礼して応接室を出た。
昼食後。
美咲は総務部の山田課長に会議室へ呼び出された。
受付は総務部に所属しており、美咲達受付嬢の上司にあたるのが山田だった。
山田達朗は四十四歳、本社ビルの営繕と受付を担当する万年課長である。
往年の大歌手、東海林太郎に似た風貌で、白髪頭に度の強い黒縁のメガネをかけ、ひょろっと痩せた体つきをしている。
その東海林太郎の歌い方と同様、山田は実直だけが取り柄の男だった。
噂では恐妻家らしく、会社が終わると寄り道一つしないで帰宅するらしい。
それ故か、社内における男女の風紀には厳しかった。
社内の飲み会でも、受付嬢に男が近づこうものなら、吠え立てるように追い払った。
そんな山田だからこそ、会社は女の職場である受付を任せているのかもしれない。
その山田が、申し訳なさそうな顔で美咲に尋ねた。
「神倉さん、この間話したことは考えてくれましたか?」
「・・ええ」
美咲は曖昧に返事をした。
山田の話とは、受付から内勤事務へ職種変更を促す打診だった。
確かに受付には年齢制限がある。
企業の華がドライフラワーでは洒落にならない。
その時がいつか来ることは、三十路を過ぎた頃から美咲も意識していた。
だがそれが現実となると、美咲はすんなりと自分の老いを認めたくはなかった。
つづく…
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受付は人の目に晒されるのが仕事である。
そうと割り切っていても、女を値踏みする露骨な男の視線に、嫌悪感を抱かない受付嬢はいない。
中にはそれが元で、視線恐怖症や対人恐怖症を患う受付嬢もいるらしい。
ところが美咲の場合、鼻の下を伸ばす男達の視線が、逆に心地良い刺激になっていた。
(そんなに私の裸が見たいの・・)
前屈みにコーヒーを置きながら、美咲は挑発するようにヒップを突き出した。
表情こそ変わらないが、邪欲を増した森島の目が美咲に襲いかかってくる。
それはあのデパートで、イヴの裸身に見入っていた男達と同じ目だった。
芦川にコーヒーを出し終えた美咲は、何ごともなかったように、扉の前で深く一礼して応接室を出た。
昼食後。
美咲は総務部の山田課長に会議室へ呼び出された。
受付は総務部に所属しており、美咲達受付嬢の上司にあたるのが山田だった。
山田達朗は四十四歳、本社ビルの営繕と受付を担当する万年課長である。
往年の大歌手、東海林太郎に似た風貌で、白髪頭に度の強い黒縁のメガネをかけ、ひょろっと痩せた体つきをしている。
その東海林太郎の歌い方と同様、山田は実直だけが取り柄の男だった。
噂では恐妻家らしく、会社が終わると寄り道一つしないで帰宅するらしい。
それ故か、社内における男女の風紀には厳しかった。
社内の飲み会でも、受付嬢に男が近づこうものなら、吠え立てるように追い払った。
そんな山田だからこそ、会社は女の職場である受付を任せているのかもしれない。
その山田が、申し訳なさそうな顔で美咲に尋ねた。
「神倉さん、この間話したことは考えてくれましたか?」
「・・ええ」
美咲は曖昧に返事をした。
山田の話とは、受付から内勤事務へ職種変更を促す打診だった。
確かに受付には年齢制限がある。
企業の華がドライフラワーでは洒落にならない。
その時がいつか来ることは、三十路を過ぎた頃から美咲も意識していた。
だがそれが現実となると、美咲はすんなりと自分の老いを認めたくはなかった。
つづく…
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