『色褪せぬ薔薇』・・・第二章
『色褪せぬ薔薇』
第二章
来年還暦を迎える秀明は、現在、太平洋建材で専務取締役営業本部長を務めている。
太平洋建材は、玄関ドアやバスユニット、システムキッチンなどを製造販売する住宅用建材メーカーである。
社員一万人を抱える業界大手の太平洋建材にあって、秀明は次期社長の最有力候補と目されていた。
むろん秀明にも野心はある。
入社以来三十七年間、秀明は誰よりも遮二無二働いてきた。
仕事人間と蔑まれようが、ただひたすら会社のために仕えてきた自負がある。
やっとその努力が認められ、社長と言う煌びやかな頂点に、手が届くところまで昇り詰めたのだった。
玲子は、ホームセンター社長の経歴書を秀明に手渡した。
「確か吉川専務は、昔、仙台で営業をされていたことがおありでしたね」
「・・ああ、二十五年前だったかな。課長になりたてで、がむしゃらに仕事をしていたよ。あの頃の若さが今あれば、今夜は東京へ戻らず、君を作並温泉にでも誘っているところだがな」
軽い冗談のつもりで秀明は大笑したが、玲子の冷たい視線に気づいて口を塞いだ。
「専務、今の発言はセクハラです。大切な時ですから、不用意な言葉は慎んで下さい。それに明日は、朝から東京で役員会が入っています」
「・・すまん」
またしても玲子に窘められた秀明は、頭を掻いて再び車窓の外へ視線を戻した。
轟音とともに列車がトンネルに入った。
ふと暗い車窓に自分の顔が映った。
(あれから二十五年が経つのか・・)
ガラスに映った秀明は、仙台にいた三十代の頃とは別人になっていた。
頭髪は白くなり、皮膚が弛んだ顔は、皺と染みだらけの老醜を晒している。
人は苦労人だと褒める。
だが秀明自身には、その皺一本一本が、染み一つ一つが、過去に傷つけてきた人々の怨嗟に思えてならなかった。
(これがトップに立つ者の罪なのか・・)
振り返ると、そこには蹴落としてきたライバル達の屍が累々と重なっていた。
つづく…
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社員一万人を抱える業界大手の太平洋建材にあって、秀明は次期社長の最有力候補と目されていた。
むろん秀明にも野心はある。
入社以来三十七年間、秀明は誰よりも遮二無二働いてきた。
仕事人間と蔑まれようが、ただひたすら会社のために仕えてきた自負がある。
やっとその努力が認められ、社長と言う煌びやかな頂点に、手が届くところまで昇り詰めたのだった。
玲子は、ホームセンター社長の経歴書を秀明に手渡した。
「確か吉川専務は、昔、仙台で営業をされていたことがおありでしたね」
「・・ああ、二十五年前だったかな。課長になりたてで、がむしゃらに仕事をしていたよ。あの頃の若さが今あれば、今夜は東京へ戻らず、君を作並温泉にでも誘っているところだがな」
軽い冗談のつもりで秀明は大笑したが、玲子の冷たい視線に気づいて口を塞いだ。
「専務、今の発言はセクハラです。大切な時ですから、不用意な言葉は慎んで下さい。それに明日は、朝から東京で役員会が入っています」
「・・すまん」
またしても玲子に窘められた秀明は、頭を掻いて再び車窓の外へ視線を戻した。
轟音とともに列車がトンネルに入った。
ふと暗い車窓に自分の顔が映った。
(あれから二十五年が経つのか・・)
ガラスに映った秀明は、仙台にいた三十代の頃とは別人になっていた。
頭髪は白くなり、皮膚が弛んだ顔は、皺と染みだらけの老醜を晒している。
人は苦労人だと褒める。
だが秀明自身には、その皺一本一本が、染み一つ一つが、過去に傷つけてきた人々の怨嗟に思えてならなかった。
(これがトップに立つ者の罪なのか・・)
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