『色褪せぬ薔薇』・・・第五章
『色褪せぬ薔薇』
第五章
山下が驚くのも無理からぬことだった。
今をときめく専務取締役が、一介の、しかも五十代半ばの女性事務員に会いたいと現れたのだ。
「私が仙台にいた頃、いろいろと世話になったんだ。それでちょっと顔を見に来たんだよ」
すると山下は表情を曇らせ、申し訳なさそうに答えた。
「駒木さんは・・数ヶ月前から休職しています。実は、その、長いこと入退院を繰り返していまして・・」
「何っ、彼女は病気なのか?」
「はい・・あの・・末期癌だと・・」
意外な山下の言葉に秀明は絶句した。
「・・う、嘘だろう?」
「いえ・・医者からは一週間ぐらいが山じゃないかと・・」
「ば、馬鹿な・・そんなことは許さん。すぐに病院へ案内してくれ!」
秀明は山下の胸倉を両手でつかむと、ぐいぐいと前後に揺すった。
その時、秀明を探していた玲子が慌てて駆け寄ってきた。
「何をなさっているんですか? そろそろ仙台駅へ移動する時間です」
「いや、私はこれから彼と一緒に病院へ見舞いに行く」
「いけません。これから東京へとんぼ返りして頂きます」
「夜の会食は延期してもらってくれ」
「いえ、会食を優先して頂きます。この先社長をなさる方が、そんな勝手をされては困ります」
秀明は握り締めた拳を震わせた。
「うるさいっ! そんなに社長業が不自由なら、こちらから願い下げだ!」
秀明は玲子を怒鳴りつけると、山下を連れて支社を出てタクシーに飛び乗った。
もう日は西に傾きつつあった。
薄く垂れ込めた雲の縁が茜色に染まり始めていた。
つづく…
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山下が驚くのも無理からぬことだった。
今をときめく専務取締役が、一介の、しかも五十代半ばの女性事務員に会いたいと現れたのだ。
「私が仙台にいた頃、いろいろと世話になったんだ。それでちょっと顔を見に来たんだよ」
すると山下は表情を曇らせ、申し訳なさそうに答えた。
「駒木さんは・・数ヶ月前から休職しています。実は、その、長いこと入退院を繰り返していまして・・」
「何っ、彼女は病気なのか?」
「はい・・あの・・末期癌だと・・」
意外な山下の言葉に秀明は絶句した。
「・・う、嘘だろう?」
「いえ・・医者からは一週間ぐらいが山じゃないかと・・」
「ば、馬鹿な・・そんなことは許さん。すぐに病院へ案内してくれ!」
秀明は山下の胸倉を両手でつかむと、ぐいぐいと前後に揺すった。
その時、秀明を探していた玲子が慌てて駆け寄ってきた。
「何をなさっているんですか? そろそろ仙台駅へ移動する時間です」
「いや、私はこれから彼と一緒に病院へ見舞いに行く」
「いけません。これから東京へとんぼ返りして頂きます」
「夜の会食は延期してもらってくれ」
「いえ、会食を優先して頂きます。この先社長をなさる方が、そんな勝手をされては困ります」
秀明は握り締めた拳を震わせた。
「うるさいっ! そんなに社長業が不自由なら、こちらから願い下げだ!」
秀明は玲子を怒鳴りつけると、山下を連れて支社を出てタクシーに飛び乗った。
もう日は西に傾きつつあった。
薄く垂れ込めた雲の縁が茜色に染まり始めていた。
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