『姦 計』 第三章
『姦 計』
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(三)
綾子は結婚前まで同じ横浜支社の事務職として働いていた。
働いていたと言っても、地元の開業医の娘で、縁故で入社した腰掛けOLだった。
わがままなお嬢様育ち故、仕事の能力を望むべくもなかったが、ブランドの服や小物で飾られた美貌とプロポーションは、社内の若い男たちの視線を釘づけにした。
しかし当時三十歳だった独身の片倉は、綾子を軽蔑に近い眼差しで眺めていた。
確かに女は美しいに越したことはないが、わがまま育ちのお嬢様では、内助の功どころか、仕事の妨げになる可能性が高い。
エリートであることを自認する片倉にとって、そんな女に熱を上げるのは愚行でしかなかった。
片倉が理想とするのは、苦労を厭わず、しっかりと家を守ってくれる女性だった。
ところが、綾子が入社して半年経った頃、片倉は同期の梅野が彼女とつき合っているという噂を聞いた。
片倉と梅野は入社以来、同じ横浜支社で熾烈なライバル争いを講じていた。
二人は全く正反対のタイプで、『静』の片倉、『動』の梅野と呼ばれていた。
体型も片倉が長身で痩せ型なのに対して、梅野は背が低く小太りである。
また片倉が知性を重んじ、慎重かつ緻密に仕事をこなすのに対し、梅野は行動を重んじ、大胆かつ豪快に仕事を片付けていく。
片倉のモットーが『石橋を叩いて渡る』だとすれば、梅野は『肉を切らせて骨を断つ』というところだろうか。
そんな二人のライバル競走が、横浜支社の業績を全国一位にまでの伸し上げていった一因でもある。
当時二人は、どちらが先に係長に昇格するか激しく火花を散らしていた。
片倉は梅野が綾子とつきあっているという噂を聞いて、ライバル心が湧き上げるのを覚えた。
そして嫌いなタイプの綾子に、梅野に負けたくない一心から、猛烈なアプローチをかけた。
綾子のブランド趣味を利用し、貯金を使い果たすまでプレゼント攻撃をかけ、コツコツとポイントを稼いでいった。
同時に片倉は梅野を陥れるデマを社内にこっそり流した。
それは梅野が、懇意にしているスナックの女と綾子を両天秤にかけているという低俗な内容だった。
しかし噂は枯野を焼くように広まり、プライドの高い綾子は梅野をあっさり捨ててしまった。
こうして片倉は、まんまと梅野の手から綾子を奪い取ることに成功したのだった。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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綾子は結婚前まで同じ横浜支社の事務職として働いていた。
働いていたと言っても、地元の開業医の娘で、縁故で入社した腰掛けOLだった。
わがままなお嬢様育ち故、仕事の能力を望むべくもなかったが、ブランドの服や小物で飾られた美貌とプロポーションは、社内の若い男たちの視線を釘づけにした。
しかし当時三十歳だった独身の片倉は、綾子を軽蔑に近い眼差しで眺めていた。
確かに女は美しいに越したことはないが、わがまま育ちのお嬢様では、内助の功どころか、仕事の妨げになる可能性が高い。
エリートであることを自認する片倉にとって、そんな女に熱を上げるのは愚行でしかなかった。
片倉が理想とするのは、苦労を厭わず、しっかりと家を守ってくれる女性だった。
ところが、綾子が入社して半年経った頃、片倉は同期の梅野が彼女とつき合っているという噂を聞いた。
片倉と梅野は入社以来、同じ横浜支社で熾烈なライバル争いを講じていた。
二人は全く正反対のタイプで、『静』の片倉、『動』の梅野と呼ばれていた。
体型も片倉が長身で痩せ型なのに対して、梅野は背が低く小太りである。
また片倉が知性を重んじ、慎重かつ緻密に仕事をこなすのに対し、梅野は行動を重んじ、大胆かつ豪快に仕事を片付けていく。
片倉のモットーが『石橋を叩いて渡る』だとすれば、梅野は『肉を切らせて骨を断つ』というところだろうか。
そんな二人のライバル競走が、横浜支社の業績を全国一位にまでの伸し上げていった一因でもある。
当時二人は、どちらが先に係長に昇格するか激しく火花を散らしていた。
片倉は梅野が綾子とつきあっているという噂を聞いて、ライバル心が湧き上げるのを覚えた。
そして嫌いなタイプの綾子に、梅野に負けたくない一心から、猛烈なアプローチをかけた。
綾子のブランド趣味を利用し、貯金を使い果たすまでプレゼント攻撃をかけ、コツコツとポイントを稼いでいった。
同時に片倉は梅野を陥れるデマを社内にこっそり流した。
それは梅野が、懇意にしているスナックの女と綾子を両天秤にかけているという低俗な内容だった。
しかし噂は枯野を焼くように広まり、プライドの高い綾子は梅野をあっさり捨ててしまった。
こうして片倉は、まんまと梅野の手から綾子を奪い取ることに成功したのだった。
つづく…
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