『プリザーブドフラワー』第六章
『プリザーブドフラワー』
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「体調はどうだ? 話せるか? 具合が悪いのならすぐに帰るよ」
「ええ、大丈夫。今日は調子がいいの・・」
相当体が弱っているのか、耳を近づけなければ聞き取れないほど、葉子の声は途切れ途切れで力なかった。
「出張で仙台支社へ来たんだ。入院していると聞いたからちょっと寄ってみたんだよ。ほら、君が好きな薔薇の花をお見舞いに持ってきたよ」
平田は慎重に言葉を選んだ。
すでに葉子は死を覚悟しているようだと山田から教えられていた。
だが最後に一目会いたくて来たとは、とても本人を目の前にして口に出来る台詞ではなかった。
「ありがとう・・山田課長から、お見舞いに来てくれるって、聞いていたから、楽しみにしていたの・・」
体を起こそうとする葉子を平田は押し留めた。
「無理するなよ」
「でも横になっていると、あなたの顔が、よく見えなくて」
ベッドの横にあったクッションを枕元に置き、平田は紙切れのように軽い葉子の体を抱き起こした。
「辛くないか?」
平田は葉子の顔を見つめた。
「ええ・・やだ、そんなに見つめないで・・お化粧したんだけど、久しぶりだから、どうも上手くいかなくて・・」
葉子は痩せこけた頬に薄くファンデーションを塗り、乾いた口唇にルージュを引いていた。
死を間近にしても、葉子は平田の前で女として振る舞おうとしている。
その健気な姿に、平田は湧き上がる涙を堪えるためにあちこち病室を見回した。
つづく…
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