『プリザーブドフラワー』第七章
『プリザーブドフラワー』
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明るい茜色に染まった病室には、ところ狭しと、ブーケのような薔薇の花束で埋め尽くされていた。
平田は首を傾げた。
剣弁高芯咲きの花形は生花そのものだが、鮮やかな青や濃い紫の花色は、かつて葉子から学んだ薔薇の種類ではあり得ないものだった。
「変な薔薇だなあ・・生花みたいだけど、色が本物じゃないしなあ・・」
「うん、この花は、プリザーブドフラワーって言うの。私がつくった造花よ」
「造花? しかし本物の花にしか見えないよ」
「そうかもね。プリザードって言うのはね・・」
覚束ない口調ではあるが、葉子は一言一言噛んで含めるように説明した。
プリザーブドフラワーとは、脱水脱色した生花を染色して乾燥させた造花である。
生花のような瑞々しさが数年に亘って持続するため、魔法の花として近年非常に人気があるフラワーアレンジメントらしい。
葉子は枕本から紙切れを取り出した。
「これ私がつくった名刺、あなたに、渡そうと思っていたの」
もう造花すら造れそうもない痛々しい手で、葉子は名刺を平田に手渡した。
『フラワーコーディネーター 駒木葉子 花束・ブーケ等(生花、プリザーブド)ご用命受けたまわります』
「一緒にお花をやっている友達と、お店を始めようと思って・・実はもう結婚式とか、注文がきているのよ・・」
平田の胸は痛んだ。
葉子は、明日の命すら保障もない今でも、夢を抱き続けて懸命に生きようとしていた。
残された時間の限りを知りながら、大切に向き合って生きようとしているのだ。
つづく…
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