『再びの夏』 第五章
『再びの夏』(五)
FC2 R18官能小説
(五)
昭和五十二年、夏。
油蝉が騒がしく鳴く昼下がりの公園。
由紀子は木陰のベンチに座り、砂場で遊ぶ三歳の英夫を見守っていた。
お盆休みが始まり、東京の街は、帰省や旅行で人々が去り、人影も疎らだった。
いつもは賑やかな公園も、がらんとして、由紀子たち以外に誰もいなかった。
由紀子は疎外感でいっぱいだった。
隣近所が家族連れで楽しそうに出かけるのを見て、こうして公園にいる自分が情けなく思えた。
(仕事だから仕方ない…それはわかっている…でも…)
家族をほっぽり出して、得意先とゴルフへ出かけた郁夫への恨みは消えなかった。
仕事一途で真面目な夫。
ギャンブルに金をつぎ込むわけでもなく、女遊びに血道をあげるわけでもない。
傍から見れば、勤勉実直な夫だと羨ましがられるのかもしれない。
だが、夫不在の暮らしは、子育てと家事だけの毎日を送る、根が甘えたがりの寂しがり屋である由紀子のストレスを鬱積させていく。
二十五歳で結婚するまでに由紀子は三度の恋をした。
いずれの終局も原因は、由紀子が新しい男に心移りしたためだった。
世の男たちは釣った魚に餌をやらない。
恋人である由紀子の扱いがどうしても粗略になる。
そんな時に他の男から言い寄られると、つい心が揺れてしまうのだ。
結婚して四年、由紀子はそんな自分の弱さを懸命に戒めてきた。
しかし一人ぼっちで昼間のアパートにいると、どうしようもない寂しさに心掻きむしられることがあった。
昨年、英夫の夜泣きが酷くて軽いノイローゼになった由紀子に、
「泣き言を言うな。それはお前が甘えているからだ。俺はお前たちのために休まず働いているんだ」
と、郁夫は言い放った。
由紀子は言い返せなかった。
夫が安心して働けるように、しっかりと家庭を支えるのが妻の役目だ。
郁夫を頼らず、強い女にならないといけないことは、由紀子自身が一番よく知っていた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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昭和五十二年、夏。
油蝉が騒がしく鳴く昼下がりの公園。
由紀子は木陰のベンチに座り、砂場で遊ぶ三歳の英夫を見守っていた。
お盆休みが始まり、東京の街は、帰省や旅行で人々が去り、人影も疎らだった。
いつもは賑やかな公園も、がらんとして、由紀子たち以外に誰もいなかった。
由紀子は疎外感でいっぱいだった。
隣近所が家族連れで楽しそうに出かけるのを見て、こうして公園にいる自分が情けなく思えた。
(仕事だから仕方ない…それはわかっている…でも…)
家族をほっぽり出して、得意先とゴルフへ出かけた郁夫への恨みは消えなかった。
仕事一途で真面目な夫。
ギャンブルに金をつぎ込むわけでもなく、女遊びに血道をあげるわけでもない。
傍から見れば、勤勉実直な夫だと羨ましがられるのかもしれない。
だが、夫不在の暮らしは、子育てと家事だけの毎日を送る、根が甘えたがりの寂しがり屋である由紀子のストレスを鬱積させていく。
二十五歳で結婚するまでに由紀子は三度の恋をした。
いずれの終局も原因は、由紀子が新しい男に心移りしたためだった。
世の男たちは釣った魚に餌をやらない。
恋人である由紀子の扱いがどうしても粗略になる。
そんな時に他の男から言い寄られると、つい心が揺れてしまうのだ。
結婚して四年、由紀子はそんな自分の弱さを懸命に戒めてきた。
しかし一人ぼっちで昼間のアパートにいると、どうしようもない寂しさに心掻きむしられることがあった。
昨年、英夫の夜泣きが酷くて軽いノイローゼになった由紀子に、
「泣き言を言うな。それはお前が甘えているからだ。俺はお前たちのために休まず働いているんだ」
と、郁夫は言い放った。
由紀子は言い返せなかった。
夫が安心して働けるように、しっかりと家庭を支えるのが妻の役目だ。
郁夫を頼らず、強い女にならないといけないことは、由紀子自身が一番よく知っていた。
つづく…
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