『再びの夏』 第四章
『再びの夏』(四)
FC2 R18官能小説
(四)
郁夫は冷たく宣告した。
「黙って俺の言う通りにすればいいんだ」
由紀子は泣きたくなった。
(やはり私は夫が嫌いだったんだ)
三十年間、パンドラの箱に封じ込めていた感情が、堰を切ったように溢れ出した。
二十五歳-結婚適齢期が早かった当時、由紀子は焦りから見合いをした。
その相手が郁夫だった。
仕事ができる人だからという親の勧めもあって、由紀子は結婚に踏み切った。
それから三十年、夫が家庭を顧みないのをいいことに、由紀子も真剣に郁夫との愛情を紡ごうとしなかった。
子育てを生きがいとしてきた由紀子には、生活費を入れてさえくれれば、郁夫のことは好きでも嫌いでも一向に差し障りなかったのだ。
ところが旅先で何十年かぶりに子供抜きで二人きりになってみると、隠し切れない郁夫への嫌悪をどうすることもできなかった。
(この先どうすればいいの…)
とてつもない不安が由紀子を襲った。
せっかくの京都旅行だ。
由紀子は頭の中を空にするように首を振った。
そして郁夫から目を逸らし、ところどころ雲が浮かんだ空を見上げた。
(ああ、邦彦)
由紀子は、暗くのしかかる憂鬱から逃れようと、白い雲を無理矢理に愛人の顔へとなぞらえた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
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(四)
郁夫は冷たく宣告した。
「黙って俺の言う通りにすればいいんだ」
由紀子は泣きたくなった。
(やはり私は夫が嫌いだったんだ)
三十年間、パンドラの箱に封じ込めていた感情が、堰を切ったように溢れ出した。
二十五歳-結婚適齢期が早かった当時、由紀子は焦りから見合いをした。
その相手が郁夫だった。
仕事ができる人だからという親の勧めもあって、由紀子は結婚に踏み切った。
それから三十年、夫が家庭を顧みないのをいいことに、由紀子も真剣に郁夫との愛情を紡ごうとしなかった。
子育てを生きがいとしてきた由紀子には、生活費を入れてさえくれれば、郁夫のことは好きでも嫌いでも一向に差し障りなかったのだ。
ところが旅先で何十年かぶりに子供抜きで二人きりになってみると、隠し切れない郁夫への嫌悪をどうすることもできなかった。
(この先どうすればいいの…)
とてつもない不安が由紀子を襲った。
せっかくの京都旅行だ。
由紀子は頭の中を空にするように首を振った。
そして郁夫から目を逸らし、ところどころ雲が浮かんだ空を見上げた。
(ああ、邦彦)
由紀子は、暗くのしかかる憂鬱から逃れようと、白い雲を無理矢理に愛人の顔へとなぞらえた。
つづく…
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