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童話『プリン』・・・第二十二章

            『プリン』
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。

日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。

第二十二章

競馬の重賞レースには、いくつかの格づけがある。
この間プリンが勝った毎日杯はG3で、その上にG2があり、最高峰のレースはG1と呼ばれる。

いくつかあるG1レースの中でも、三歳馬だけしか走れないレースがある。
皐月賞、日本ダービー、菊花賞。

この三つのG1は、クラシックと呼ばれる大レースで、すべてを勝った馬には三冠馬の称号が与えられる。
毎年一万頭近くのサラブレッドが産まれるが、三冠の栄誉を手に入れた馬は、長い競馬の歴史で二頭しかいない。

その初戦にあたる皐月賞に、この間まで負け続けていたプリンが出走する。
だが他にも強い馬が出るので、毎日杯をぎりぎりで勝ったプリンに、期待するのは荷が重すぎると哲夫は考えているようだった。

G1を勝つとその後すぐに表彰式がある。
馬主、調教師と並んで、馬を育てた牧場主も競馬場で表彰されるのだ。
だからプリンが勝つかどうかわからないが、哲夫は千葉にある中山競馬場へ行かなければならない。

「お前も連れて行くから」

プリンの皐月賞出走が決まると、哲夫は中学生になった洋士に命じた。

洋士もプリンが大レースに勝てるとは思えなかった。
負けるプリンを見たくはなかったが、もう一度プリンに会いたいと洋士はうなずいた。

キタコブシの白い花が北海道に遅い春を告げる頃、近所の牧場仲間に見送られて、古谷一家は千葉にある中山競馬場へ向かった。

皐月賞当日、朝から競馬場はたくさんの人でごった返していた。
大レースとあって、競馬ファンは興奮気味だった。

「絶対ラッキーポーラが勝つよ」

「いや、ハローバンガードは強いぞ」

みな応援する馬が勝つとゆずらないが、プリンスバードの名前を挙げる人は、ほとんど見かけなかった。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第二十一章

            『プリン』
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
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第二十一章

北海道に戻ると、森本が約束してくれた通り、プリンは一月に出走したレースで勝つことができた。

「やった!」

競馬中継を聞きながら、洋士は小さくガッツポーズをした。
二着の馬を大きく引き離しての勝利だった。
洋士は翌日のスポーツ新聞を買って、プリンスバードと名前が出ているのを清美に見せてやった。

そして二月のレースでは二着と惜敗したものの、三月には毎日杯という三歳馬同士の重賞レースに挑戦した。
最後のゴール前で接線になったが、後ろの方から伸びてきたプリンが、二着の馬にクビの差をつけて勝った。

プリンは重賞馬になった。
洋士は信じられなかった。
確かに森本の言葉通りだが、去年まで一勝もできなかったプリンが、あっと言う間に一流馬の仲間入りしたのだ。

哲夫と明子も大喜びだった。
古谷牧場から出た初重賞場だった。
近くの牧場仲間が集まって、にぎやかな酒盛りが繰り返された。

「いよいよ次は皐月賞だね」

「皐月賞でもいい勝負ができるよ」

お祝いに来る人は口々にそう言った。
森本調教師からも、プリンを皐月賞に挑戦させたいと連絡があった。

「いや、そこまで実力はないよ・・」

哲夫は控え目に首を振った。
それもそのはず、つい先週までは、やっと一勝できたプリンにほっとしていたのだ。
皐月賞に出られるなど夢にも思わぬことだった。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第二十章

            『プリン』
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
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第二十章

森本厩舎は十頭の馬を預かっている。
並んだ馬房を歩きながら、洋士は心臓がドキドキするのを感じた。

「プリン!」
洋士は思わず声を出してしまった。
そこには別れた時より一回り体が大きくなったプリンがいた。
ピンと耳を前に向けて、プリンはじっと洋士を見つめた。

「ヒヒン」

一声高くいななくと、プリンは頭を低くして馬栓棒から顔を出した。
プリンは洋士を覚えていたのだ。
円らな目を細めて、子馬のように鼻先をこすりつけてきた。

「プリン・・」

うれしいのに涙があふれてきた。
泣きながら洋士は、プリンの顔を抱くように何度もなでてやった。
プリンが前足でコンクリートの床をガリガリかいた。

「お腹が空いたのか?」

ニンジンの細切りをやると、プリンは美味しそうに食べ始めた。
森本が驚いた顔で近づいてきた。

「ほう、プリンの好物はニンジンか」

「はい、でも細切りにしてやらないとあまり食べないんです」

「なるほど、そうだったのか。これからはもっとニンジンの細切りをあげよう」

森本はプリンの食欲がないのを気にしていた。
競走馬は激しい運動をするので、飼い葉を食べる量は健康上大切なことだった。
洋士は気になっていたことを森本に聞いて見た。

「プリンは・・強い馬になれますか?」

「ああ、大丈夫だ。三歳になったから、きっと勝てるようになると思うよ」

力強い森本の言葉に、洋士は安心して気持ちがゆるむのを感じた。
洋士はニンジンを食べさせながら、プリンに何度も頑張れと話しかけていた。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第十九章

            『プリン』
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
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第十九章

正月二日、東京にある明子の実家から、哲夫と洋士は二人で茨城へ向かった。
洋士は、ニンジンの細切りが詰め込んだリュックを背負い、プリンと再会できる楽しみに心を躍らせた。
だが半面不安もあった。

(プリンは僕を覚えているだろうか?)

古谷牧場を離れ一年以上が経っている。
いくら洋士が弟のように可愛がっても、しょせんプリンは動物に過ぎないのだ。
新しい厩務員に懐いて、洋士のことなどすっかり忘れているかもしれない。

トレーニング・センターは、通称トレセンと呼ばれる競馬会の施設である。
茨城と京都の二ヶ所にあり、レースに出る馬たちが、ここに入って訓練などの準備をする。
トレセンには、競馬場と変わらない練習コースや、たくさんの厩舎、馬の医療施設などが備えられている。

生き物を扱う仕事に正月休みはない。
一千頭以上も馬がいるトレセンの中で、哲夫は一軒の厩舎に立ち寄った。

「おう、古谷さん。正月に来るなんて珍しいねえ」

哲夫と同い年ぐらいだろうか、紺色のジャンパーを着た小柄な男は、皺だらけの顔でこちらを振り向いた。
調教師の森本武夫だった。

調教師の仕事は、馬主から預かった馬をレースに出走させることである。
そのためトレセンに厩舎を構え、預かった馬の世話をしながら練習コースで訓練する。

馬主に頼まれていい子馬を探すこともあり、牧場主とは顔見知りであることが多い。
哲夫と洋士を事務所へ案内すると、森本は自分でお茶を出してくれた。

「古谷さんの息子さん?」

「ええ、この子がプリンスバードに会いたいと言うので伺いました」

「プリンスバード? ああ、金子さんが古谷さんのところで買った馬だったね」

「この子が初めて世話をした馬なんです」

森本はニコニコ笑ってうなずくと、プリンがいる馬房へ案内してくれた。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第十八章

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第十八章

三連敗。
馬主の金子は、期待できるとプリンを買った。

何年も馬主を続けてきた金子が買うのだから、プリンには走る素質はあるのだろう。
哲夫が買う競馬専門新聞を読むと、プリンには走る気持ちがないと書かれていた。

(ぼくが甘やかしたからだ)

プリンが勝てないのは、自分の責任だと洋士は感じた。
もっと厳しくプリンに接していれば、競走馬としての自覚が生まれていたに違いない。
レースの中継が終わると、牧草刈りを手伝うのも止めて、洋士は一人牧場の丘を下りて家へ向かった。

また北海道に長い冬がやってきた。
プリンは十二月になっても一勝もできず、六連敗で二歳馬すべてのレースを終えた。

(プリンに会いたい)

年が明けてプリンは三歳になるが、遠く北海道にいる洋士は心配でしかたなかった。
曇りガラスの外で雪が降りしきる夜、夕飯を終えた哲夫が年始の予定を洋士に話した。

「新年は母さんの実家へ行くぞ」

「え、東京の?」

「ああ、ずっと会っていないからね」

洋士はしばらく考えて聞いてみた。

「父さん、東京へ行ったらプリンに会えるかな?」

「ああ、プリンがいる茨城なら、東京から電車で二時間ぐらいかな」

洋士は喜んだ。
その日から毎日のように、トレーニング・センターへ行くことを哲夫に念押しした。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第十七章

            『プリン』
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
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第十七章

洋士には、大人たちの笑い声など耳に入らなかった。
ただぼんやりと、草を食む母馬と子馬たちを眺めていた。

プリンはもういない。
育成牧場へプリンが行った秋から、洋士は馬たちの世話をしていなかった。

洋士は馬が好きだったのではなく、プリンが好きなだけだった。
だからこの春に産まれた子馬も、面倒をみたいと哲夫に頼まなかったのだ。

今日の牧草刈りも半ばいやいや手伝っていた。
哲夫が腕時計を見てラジオをつけた。

「洋士、そろそろ始まるぞ」

「・・うん」

静かな牧場の丘で、ラジオから競馬中継が流れた。
今日はプリンのレースがある日だった。

『・・本日の福島第五競争は二歳未勝利戦、芝の一六〇〇メートルです・・』

洋士はラジカセに耳を近づけた。
プリンは、プリンスバードという馬名で、七月の新馬戦にデビューしていた。

だがそのレースでは、プリンはまったく走る気を見せず、トップから大きく水をあけられたビリだった。
雪辱を期待した第二戦も、スタートで出遅れて、一頭の馬も追い抜けず、最後尾でゴールを駆け抜けたのだった。

そして今日が第三戦、洋士は気が気ではなかった。
『スタートしました・・おっと一頭出遅れました・・プリンスバードです・・』

洋士はがっくりとうなだれた。
競馬には、一〇〇〇メートルから三〇〇〇メートルを越すレースがある。
一六〇〇メートルは短めなレース距離で、スタートでの出遅れは致命傷だった。

『ゴールまで残り四〇〇メートル、ポツンと取り残されたプリンスバード以外は、十二頭一丸となって最後の直線に入っていく・・』

隣にいた明子が洋士の肩に手を置いた。
一緒に実況を聞いていた哲夫は、プリンは大器晩成だと洋士をなぐさめた。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第十六章

            『プリン』
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第十六章

また夏がやって来た。
緑のクレヨンで塗りつぶしたように、大地一面に牧草が生い茂っている。
その旺盛な成長力は、北海道の短い夏を精一杯に生きているように見えた。

遠くで声がした。

「そろそろ昼飯にしよう」

眺めがいい丘の上で、哲夫がビニールシートを旗のように振った。
夏の牧草刈り。
並べられたおにぎりを目当てに、三々五々人が集まってシートに腰を下ろした。

「牧場で食べるおにぎりって最高!」

「牧場へアルバイトに来て良かったわ!」

明子がつくったおにぎりを頬張りながら、東京から来た女子大学生の二人が大袈裟に叫んだ。
彼女たちは学校の夏休みを使って、住み込みで古谷牧場へ働きに来ているのだ。
お茶を配りながら、明子がおにぎりを差し出した。

「清美ちゃんもお腹が空いたでしょう。たくさん食べてね」

「はい、いただきます」

どこで聞いたのか、清美は牧草刈りを頼みもしないのに手伝いに来ていた。
女子大学生たちが清美をからかった。

「清美ちゃん、頑張って働いていたものね」

「かえって足手まといになってすみません」

小学校六年生になった清美は、昔のようにお転婆ではなくなり、なぜか最近妙に大人しいことが多かった。

「でも小学生なのにすごいわ。私たちより牧場の仕事を知っているものね」

「・・それはよく遊びに来ているから」

今も時々清美は、学校の帰りにここへ寄り道していく。
そして哲夫や明子と一緒に、馬の世話を手伝って帰るのだった。

「まあ、それならいつ牧場へお嫁に来ても大丈夫じゃない」

「ち、違います・・私、お嫁になんか・・」

清美は顔を真っ赤にしてうつむいた。
なぜそんなに慌てるのかわからないが、おにぎりを頬張ると、清美は逃げるようにまた厩舎へ戻って行った。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第十五章

            『プリン』
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第十五章

初めての馬運車に、プリンはなかなか乗ろうとしなかった。
不安なのか、耳をクルクル回して警戒している。
無理矢理綱で引くと、後ろ足を跳ね上げて暴れた。

「大人しくするんだよ」

洋士は持ってきたニンジンの細切りを差し出した。
プリンはおいしそうにニンジンを食べると、洋士の気持ちがわかったのか、暴れるのを止めて馬運車に乗り込んだ。
プリンを乗せると、馬運車の扉がゆっくりと閉まり始めた。

「プリン」

思わず洋士は大きな声で名を呼んだ。
するとプリンは、哀しそうな目で洋士を振り返った。

「い、いやだ。お父さん、やっぱりプリンはこのまま牧場に・・」

哲夫はぐっと手で洋士の肩をつかんだ。
見上げると、父の目にも涙が潤んでいた。
きっと哲夫は、こうして毎年馬を送り出す時、洋士よりもつらい思いをしてきたのかもしれない。
手塩にかけて育ててきた馬が、競馬の世界で勝ち残っていけるのか、不安でしかたなかったはずだ。

馬運車が牧場を出て行った。
ぽつんと取り残された洋士は、いつまでもその車が走っていくのを見送った。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第十四章

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第十四章

その秋、プリンも育成牧場へ巣立ちする日がやってきた。
プリンが預けられる牧場は、北海道から遥か離れた茨城県にあった。
馬を輸送する馬運車で、プリンはまる二日近くかけて運ばれていくのだ。

前夜、洋士は一睡もできなかった。
いつかプリンがこの牧場から去って行くことは、世話を始めた頃からわかっているつもりだった。

馬主の金子にも言われていた。
だがプリンが明日からそばにいなくなると思うと、涙があふれて止まらなくなった。

円らで澄んだ目で見つめるプリン。
鼻をこすりつけて甘えるプリン。
ニンジンの細切りが好きなプリン。
洋士を見つけると駆け寄ってくるプリン。

わずか一年半だったが、かわいいプリンの顔が一晩まぶたから消えなかった。
声を押し殺して泣いているうちに、別れの日の朝が明けてしまった。

朝、プリンを乗せる馬運車が到着した。

「いい子で頑張るのよ」

お別れに来た清美は、わんわん泣きながら何度もプリンの体をなでた。
清美は毎日学校の帰りに牧場へ立ち寄り、母親のようにプリンを見守ってくれた。
洋士もつられて涙があふれるのをぐっとこらえた。

(馬はペットではない)

馬主の金子が話してくれた言葉が、洋士の心から離れなかった。
プリンはずっとこの牧場にはいられない。
甘えん坊のプリンのままでは、競馬の世界で生きていけない。
強い馬にならなければ、過去の名馬のように、たくさんの人々から愛してもらえないのだ。
つづく・・・
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童話『プリン』・・・第十三章

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第十三章

洋士の前で言葉を濁した哲夫だが、プリンは期待できない馬だと思っていた。
良くて一勝できるかどうか、悪ければレースに出走することもできないだろう。

競馬は厳しい世界だ。
サラブレッドに産まれても、レースに一度も出走できない馬も多い。

ましてやレースで勝てるのは、ほんの一握りの馬だけしかいないのだ。
確かにプリンはそこそこの馬体をしているが、他の馬よりも前を走りたい気持ちがなければ、レースに勝つことはできない。

(洋士にはかわいそうだが・・)

哲夫がプリンの世話を洋士に任せたのは、牧場の仕事を知って欲しかったからだ。
だが期待できる子馬ならば、まだ馬の扱いもわからない洋士に世話をさせなかっただろう。

逆に言えば、哲夫はプリンに期待していなかったから、洋士が世話をすることを許したのだった。
そんな哲夫の思惑も知らず、洋士は根気強くプリンの世話を続けた。

北海道の冬は長く厳しい。
寒い朝も早起きして、学校へ行く前にプリンの飼い葉をつける。
学校から帰ると、すぐに厩舎へ向かって、夕方の飼い葉と寝藁を整えてやる。

休みの日は哲夫を手伝って、プリンの体を洗ってやったり、ブラシをかけてやったりした。
友達と遊ぶ時間は少なくなったが、洋士は決してつらいとは思わなかった。
一人っ子の洋士は、本当に弟ができたように、プリンといると楽しかった。

また春が来て、夏がやってきた。
プリンは一歳になっていた。
細くて頼りなかった馬体は、大人の馬と見分けがつかないほど大きくなった。
洋士も小学校五年生になったが、プリンの背中は大人の身長ぐらいの高さになっていた。

馬は一歳の秋を迎えると、生まれ育った生産牧場から育成牧場へ移される。
育成牧場とは、馬に人を乗せて走る訓練をさせるところで、馬房と放牧地、そして調教用の競争コースを備えている。

重い人間を乗せるのは、馬だって決して好きではない。
それを徐々に慣らして、競馬で走れるようにするのだ。
そしてまっすぐ走る訓練や、他の馬と並んで走る訓練を行う。

これができて初めて、競馬のレースに出走することが許される。
そして育成牧場で訓練を積んだ馬は、調教師と呼ばれる人に預けられ、二歳の夏頃から競馬に出走するのだ。
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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
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