童話『プリン』・・・第十七章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第十七章
洋士には、大人たちの笑い声など耳に入らなかった。
ただぼんやりと、草を食む母馬と子馬たちを眺めていた。
プリンはもういない。
育成牧場へプリンが行った秋から、洋士は馬たちの世話をしていなかった。
洋士は馬が好きだったのではなく、プリンが好きなだけだった。
だからこの春に産まれた子馬も、面倒をみたいと哲夫に頼まなかったのだ。
今日の牧草刈りも半ばいやいや手伝っていた。
哲夫が腕時計を見てラジオをつけた。
「洋士、そろそろ始まるぞ」
「・・うん」
静かな牧場の丘で、ラジオから競馬中継が流れた。
今日はプリンのレースがある日だった。
『・・本日の福島第五競争は二歳未勝利戦、芝の一六〇〇メートルです・・』
洋士はラジカセに耳を近づけた。
プリンは、プリンスバードという馬名で、七月の新馬戦にデビューしていた。
だがそのレースでは、プリンはまったく走る気を見せず、トップから大きく水をあけられたビリだった。
雪辱を期待した第二戦も、スタートで出遅れて、一頭の馬も追い抜けず、最後尾でゴールを駆け抜けたのだった。
そして今日が第三戦、洋士は気が気ではなかった。
『スタートしました・・おっと一頭出遅れました・・プリンスバードです・・』
洋士はがっくりとうなだれた。
競馬には、一〇〇〇メートルから三〇〇〇メートルを越すレースがある。
一六〇〇メートルは短めなレース距離で、スタートでの出遅れは致命傷だった。
『ゴールまで残り四〇〇メートル、ポツンと取り残されたプリンスバード以外は、十二頭一丸となって最後の直線に入っていく・・』
隣にいた明子が洋士の肩に手を置いた。
一緒に実況を聞いていた哲夫は、プリンは大器晩成だと洋士をなぐさめた。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・紅殻格子呟き日記』
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