童話『プリン』・・・第十六章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第十六章
また夏がやって来た。
緑のクレヨンで塗りつぶしたように、大地一面に牧草が生い茂っている。
その旺盛な成長力は、北海道の短い夏を精一杯に生きているように見えた。
遠くで声がした。
「そろそろ昼飯にしよう」
眺めがいい丘の上で、哲夫がビニールシートを旗のように振った。
夏の牧草刈り。
並べられたおにぎりを目当てに、三々五々人が集まってシートに腰を下ろした。
「牧場で食べるおにぎりって最高!」
「牧場へアルバイトに来て良かったわ!」
明子がつくったおにぎりを頬張りながら、東京から来た女子大学生の二人が大袈裟に叫んだ。
彼女たちは学校の夏休みを使って、住み込みで古谷牧場へ働きに来ているのだ。
お茶を配りながら、明子がおにぎりを差し出した。
「清美ちゃんもお腹が空いたでしょう。たくさん食べてね」
「はい、いただきます」
どこで聞いたのか、清美は牧草刈りを頼みもしないのに手伝いに来ていた。
女子大学生たちが清美をからかった。
「清美ちゃん、頑張って働いていたものね」
「かえって足手まといになってすみません」
小学校六年生になった清美は、昔のようにお転婆ではなくなり、なぜか最近妙に大人しいことが多かった。
「でも小学生なのにすごいわ。私たちより牧場の仕事を知っているものね」
「・・それはよく遊びに来ているから」
今も時々清美は、学校の帰りにここへ寄り道していく。
そして哲夫や明子と一緒に、馬の世話を手伝って帰るのだった。
「まあ、それならいつ牧場へお嫁に来ても大丈夫じゃない」
「ち、違います・・私、お嫁になんか・・」
清美は顔を真っ赤にしてうつむいた。
なぜそんなに慌てるのかわからないが、おにぎりを頬張ると、清美は逃げるようにまた厩舎へ戻って行った。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・紅殻格子呟き日記』
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