童話『プリン』・・・第十九章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第十九章
正月二日、東京にある明子の実家から、哲夫と洋士は二人で茨城へ向かった。
洋士は、ニンジンの細切りが詰め込んだリュックを背負い、プリンと再会できる楽しみに心を躍らせた。
だが半面不安もあった。
(プリンは僕を覚えているだろうか?)
古谷牧場を離れ一年以上が経っている。
いくら洋士が弟のように可愛がっても、しょせんプリンは動物に過ぎないのだ。
新しい厩務員に懐いて、洋士のことなどすっかり忘れているかもしれない。
トレーニング・センターは、通称トレセンと呼ばれる競馬会の施設である。
茨城と京都の二ヶ所にあり、レースに出る馬たちが、ここに入って訓練などの準備をする。
トレセンには、競馬場と変わらない練習コースや、たくさんの厩舎、馬の医療施設などが備えられている。
生き物を扱う仕事に正月休みはない。
一千頭以上も馬がいるトレセンの中で、哲夫は一軒の厩舎に立ち寄った。
「おう、古谷さん。正月に来るなんて珍しいねえ」
哲夫と同い年ぐらいだろうか、紺色のジャンパーを着た小柄な男は、皺だらけの顔でこちらを振り向いた。
調教師の森本武夫だった。
調教師の仕事は、馬主から預かった馬をレースに出走させることである。
そのためトレセンに厩舎を構え、預かった馬の世話をしながら練習コースで訓練する。
馬主に頼まれていい子馬を探すこともあり、牧場主とは顔見知りであることが多い。
哲夫と洋士を事務所へ案内すると、森本は自分でお茶を出してくれた。
「古谷さんの息子さん?」
「ええ、この子がプリンスバードに会いたいと言うので伺いました」
「プリンスバード? ああ、金子さんが古谷さんのところで買った馬だったね」
「この子が初めて世話をした馬なんです」
森本はニコニコ笑ってうなずくと、プリンがいる馬房へ案内してくれた。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・紅殻格子呟き日記』
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