童話『プリン』・・・第十三章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第十三章
洋士の前で言葉を濁した哲夫だが、プリンは期待できない馬だと思っていた。
良くて一勝できるかどうか、悪ければレースに出走することもできないだろう。
競馬は厳しい世界だ。
サラブレッドに産まれても、レースに一度も出走できない馬も多い。
ましてやレースで勝てるのは、ほんの一握りの馬だけしかいないのだ。
確かにプリンはそこそこの馬体をしているが、他の馬よりも前を走りたい気持ちがなければ、レースに勝つことはできない。
(洋士にはかわいそうだが・・)
哲夫がプリンの世話を洋士に任せたのは、牧場の仕事を知って欲しかったからだ。
だが期待できる子馬ならば、まだ馬の扱いもわからない洋士に世話をさせなかっただろう。
逆に言えば、哲夫はプリンに期待していなかったから、洋士が世話をすることを許したのだった。
そんな哲夫の思惑も知らず、洋士は根気強くプリンの世話を続けた。
北海道の冬は長く厳しい。
寒い朝も早起きして、学校へ行く前にプリンの飼い葉をつける。
学校から帰ると、すぐに厩舎へ向かって、夕方の飼い葉と寝藁を整えてやる。
休みの日は哲夫を手伝って、プリンの体を洗ってやったり、ブラシをかけてやったりした。
友達と遊ぶ時間は少なくなったが、洋士は決してつらいとは思わなかった。
一人っ子の洋士は、本当に弟ができたように、プリンといると楽しかった。
また春が来て、夏がやってきた。
プリンは一歳になっていた。
細くて頼りなかった馬体は、大人の馬と見分けがつかないほど大きくなった。
洋士も小学校五年生になったが、プリンの背中は大人の身長ぐらいの高さになっていた。
馬は一歳の秋を迎えると、生まれ育った生産牧場から育成牧場へ移される。
育成牧場とは、馬に人を乗せて走る訓練をさせるところで、馬房と放牧地、そして調教用の競争コースを備えている。
重い人間を乗せるのは、馬だって決して好きではない。
それを徐々に慣らして、競馬で走れるようにするのだ。
そしてまっすぐ走る訓練や、他の馬と並んで走る訓練を行う。
これができて初めて、競馬のレースに出走することが許される。
そして育成牧場で訓練を積んだ馬は、調教師と呼ばれる人に預けられ、二歳の夏頃から競馬に出走するのだ。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・紅殻格子呟き日記』
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