童話『プリン』・・・第二十八章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第二十八章
むろん一年に一万頭近く生まれるサラブレッドは、乗馬になることもかなわず死んでいく。
だが皐月賞馬として愛された馬の最後としては、あまりにも切なく哀しい流転の生涯である』
もう涙で洋士は記事が読めなかった。清美も泣いている。
洋士はうめくように名を呼んだ。
「プリン・・」
悔しくて言葉にならなかった。
幸せな生活をしていると、洋士は勝手に想像してプリンを見捨てたのだ。
もしプリンの苦しみがわかっていたら、哲夫に頼み込めば、古谷牧場へ引き取ることもできたはずだ。
今もプリンの顔が目に浮かぶ。
もっと一緒に遊んでやりたかった。
もっと甘えさせてやりたかった。
もっとニンジンの細切りを食べさせてやりたかった。
しばらく子供のように泣いていた洋士に、プリンが死んだ観光牧場へ行きたいと清美は言った。
「・・しかし」
泣いていた清美は、有無を言わせず洋士に支度させると、手を引いてアパートから引っ張り出した。
そして東京駅で列車に乗ると、二人は一路晩夏の房総半島へ向かった。
きらきらと波頭が輝く海の近くに、その観光牧場はあった。
砂のコースがあるだけの、どこかさびれた田舎の観光施設だった。
洋士はがく然とした。
東京から列車で一時間半ぐらいの距離にプリンはいたのだ。
そして過酷な重労働を強いられていた。
そんなプリンを放ったらかしにして、洋士は東京で楽しい生活をぬくぬくと送っていた。
そう思うと、プリンが死んだ観光牧場へ入るのが、洋士は恐くてしかたなかった。
つづく・・・
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