童話『プリン』・・・第九章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第九章
馬を売らなければならないことは、洋士もよくわかっていた。
だがプリンは別だった。
弟を売ることなどできない。
初めて世話をしたプリンを手放したくなかった。
プリンが洋士を見つけて駆け寄ってきた。
(こっちへ来たらダメだ!)
そう心の中で大声を出すと、洋士はプリンを追い払おうとした。
しかしプリンは、いつものように柵から首をのぞかせ、洋士の腕に顔をすり寄せてきた。
金子があごのひげをなでながら、ちらっとプリンに目をやった。
「ほう、なかなかバランスがいい馬じゃな」
「ファバードの子供です」
哲夫が引き綱をつけようとすると、プリンは嫌がって洋士の背中に隠れた。
「坊や、この馬は何という名前なのかな?」
「・・プリンです」
「なるほど、快速馬だった祖父プリンスリールーラに似ているな」
金子は満足そうに頷くと、プリンの体をまじまじと見回した。
洋士と清美は、プリンの前に立って、なるべく老人の目から隠そうとした。
「プ、プリンは他の子馬にくらべて足が遅いんです。そ、それに・・」
言葉が詰まった洋士を継いで、清美も必死にプリンの悪口を言った。
「それに甘えん坊で、走ろうとする気持ちがないんです」
馬主の金子はかっかっと笑った。
「坊やたちはプリンが大好きなんじゃな。離れたくないから、そんなに悪く言っているんじゃろう?」
洋士と清美は黙ってうつむいた。
「じゃがな、馬はペットじゃないぞ。走るために産まれてきた生き物じゃ。競馬で走ってこそ、サラブレッドは幸せなんじゃ」
子馬をずっと牧場に置いておくわけにはいかない。
馬主が買いに来なくても、子馬たちはセリに出される。
そこでも買い手がつかない馬は、結局役立たずと言われて牧場から追い出されるのだ。
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・紅殻格子呟き日記』
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