童話『プリン』・・・第二十三章
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、競走馬の名誉でも栄光でもなかった・・・。
ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、
椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
第二十三章
プリンは八番人気だった。
実力からすれば仕方ないが、洋士はちょっぴり悔しい気持ちがした。
哲夫と洋士は、プリンが準備する競馬場の馬房へ向かった。
特別に森本調教師がプリンに会わせてくれた。そこには、ツヤツヤした栗色の馬体を輝かせたプリンでいた。
「プリン!」
洋士の姿を見つけたプリンは、ブルルッと鼻を鳴らした。
そして甘えたくて、頭を突き出してなでてもらおうとする。
いつものプリンだった。
レース前でニンジンをやることができないが、洋士はすりつけてくるプリンの顔を優しくなでてやった。
「勝てなくてもいいから、怪我をしないで帰ってくるんだぞ」
人気がなくて悔しい気持ちはもう消えていた。
やはりプリンは洋士の弟だった。
プリンはいつものプリンでいいと洋士は思った。
レースの時間が近づいた。
スタンドはぎっしり人で埋まっている。
初めて走るプリンを近くで見たくて、森本調教師に頼んで、ゴールから二〇〇メートル手前のスタンド脇に、洋士は母と一緒に陣取っていた。
コース外柵のすぐ外で、馬に手が届きそうな芝生の上だった。
G1レースのファンファーレが鳴る。
皐月賞―二〇〇〇メートル芝コース。
ぐっと洋士は汗ばむ手を握りしめた。
ゲートが開いた。
馬はわれ先に飛び出し、コースを時計回りに猛然と走りだした。
スタンド前から向こう正面を進む馬を、哲夫はずっと双眼鏡で見守っていた。
「プリンは後ろから三番手ぐらいだ」
「大丈夫かな?」
「ああ、まだ勝負はわからない」
つづく・・・
『妄想の囲炉裏端・・・紅殻格子呟き日記』
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