『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(九)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者 (九)
昭和三十二年の秋だった。
寛三は箕面谷から深い九州山地へ足を踏み入れた。むろん当てなどなかった。
むしろ遭難して死んだ方が、俗世で生きる目的を失った寛三には好都合だったのかもしれない。
三日三晩山中を彷徨った。
疲労と空腹の限界は、寛三に様々な幻覚や妄想を白昼夢のように見せた。
修験道の山伏が霊力を身につけるように、この時の体験が寛三に宗教的な力の根源になっているのかもしれない。
だが人は霊力のみにて生きられるものにあらず。
いよいよ死を覚悟した寛三は、末期の水を求めて山間の谷川へ向かった。
「あっ」
そこで思わず寛三は声をあげた。
僅かに拓けた河原に、薄汚れた十張ほどのユサバリと呼ばれるテントが並んでいた。
サンカの集団だった。
夕飯の支度をしているのか、ユサバリから竈の煙が夕焼け空に細く立ち上っていた。
その河原が、現在の天神会本部道場のある場所である。
山を削って河原の平地を広げ、川は建物の下に掘った暗渠を通している。
寛三はふらふらした足取りで河原へ近づいた。すると川辺にしゃがんで椀を洗う娘の姿が目に映った。
(間違いない・・三年前に出逢った少女だ)
ふっと安堵に包まれた寛三は、全身の疲労を感じてその場にへたり込んでしまった。
つづく…
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