『人外境の花嫁』 十.暗黒の救済者(十三)
『人外境の花嫁』
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十.暗黒の救済者 (十三)
大聖天堂にはしわぶき一つ聞こえない。
「このあたりが藤野さん拉致監禁の真相だと思いますよ。乱裁さん。まだわからないこともありますけどね。何故あなたは大麻と言う危険を冒してまで、ホームレスを救おうとしたかです」
「・・・・」
乱裁はただ降矢木を見ているだけで何も語らない。
「確かに当時サンカは社会的弱者でした。山と里の境界で細々と生きてきたのに、昭和三十年代の高度経済成長によって、自由な漂泊者のサンカは絶滅させられた」
「・・・・」
「それはホームレスも同じでしょう。誰かが助けなければ、路傍に彼等の屍を放置される事態が起きます。今は行政が面倒を看ていますが、世の中が痩せ細って余力を失えば、ホームレスなど一溜まりもありません」
月絵は次々と繰り出される降矢木の洞察眼の凄まじさに舌を巻いた。
善は己のゆとりによって生まれる。
自分が生きるのに精一杯ならば、他人を慈しむ余裕など、イエス・キリストぐらいしか持ち得ないだろう。
ヒステリックになった大衆が、真っ先に弱者を攻撃するのは歴史の習いである。
「天神会をつくった原点は教えてくれないでしょうね。それは乱裁さん、あなたの心の問題ですから強要しませんけどね」
降矢木はふっとため息をついた。
「おそらくは・・香具師だったあなたが、この九州で出逢った藤野さんのお母さんへの想いだったのではありませんか・・心優しい弱者への慈悲だったんでしょうね」
乱裁は表情を変えず、遠く大聖天堂の天井を見上げている。
「愛していた奥様を亡くされ、その娘さえも平和な暮らしを壊した者共の苦界から助けることも出来ない。それが天神会をつくった原典だったと思いたい」
初めて憤怒の表情に変じた降矢木は、大聖天堂をぐるりと指差して語気を荒げた。
「その志は尊いが、結局あなたが辿り着いたのは、平地人と変わらぬ欲望の世界に他ならないではないですか!」
そう言い切った降矢木は、すっかり満足したのか、みるみる萎んでいつもの頼りない姿に戻ってしまった。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。