『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(二)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(二)
月絵は頭を激しく横に振った。
「厭っ、先生に抱かれたい。先生といっぱいセックスしたい」
最早普段の月絵ではなかった。
殺されるかもしれない切迫感が、コンプレックスどころか、月絵の羞恥まで解放してしまったのかもしれない。
「良く言った。僕は月絵君が高校生の頃からずっと我慢してきたんだ。むろん異性不純交遊に相当するし、金治親分に殺されかねないからね」
降矢木と月絵はじっと見つめ合った。
「・・先生、私、死にたくない」
「うん、僕もだ。生き抜いて毎日セックスしよう」
「はい、でも初めてだから優しくしてね」
そこでコホンと咳をして畠山が二人の会話を遮った。
「此の期に及んで何を囁き合っているんですか・・まあ、先生も月絵ちゃんも、三途の川を渡り始めたところで、お互いの心が通じ合って良かったですね。蛙みたいに蓮の葉の上で所帯を持たれた時は、お盆ぐらいに私もご招待頂ければ嬉しいですよ」
畠山は口を尖らせて皮肉りながら、その目には涙を溢れんばかりに溜めていた。
三人は大聖天堂の祭壇で、百人ほどいる天神会幹部に囲まれているのだ。
降矢木は哀しげな双眸を向けた。
「畠山君、我々はもう観念するしかない。秘密を知ってしまったからには、天神会に入信するか、薬物中毒で廃人にされるか、処刑されてこの山奥に死体を放置されるか・・」
「せ、先生。僕もまだ死にたくありません」
畠山は喉の奥から声を絞り出すと、そのまま前のめりに崩れて気を失った。
つづく…