『人外境の花嫁』十一.人外境の怨讐者(五)
『人外境の花嫁』
十一.人外境の怨讐者(五)
乱裁が応えた。
「金治よ、何年ぶりになるだろう」
「寛三兄貴、戦後の横浜で愚れていたのは昭和三十年前でした。あの頃は、私が二十歳、兄貴が二十台半ばだったと思います」
「平成二十二年の今、わしが八十一、そして金治が七十八歳・・五十六年の月日が経ったわけか」
「お互いに年を取りました」
「そうじゃな」
銃を構えて対峙する緊迫した状況の中、乱裁と金治はお互いを見つめて笑った。
金治は続ける。
「こんな物騒なものをお見せしたことをお詫びします。ですがこうでもしなければ、兄貴の手下が中へ入れてくれなかったもので」
そう言って金治が目配せすると、黒服の若い衆達は手にした拳銃を懐に隠した。
乱裁はふっと笑った。
「若葉会の総力を挙げて、娘を取り返しに来たと言うことか」
「ええ、年を取ってから授かった娘は、目の中に入れても痛くないほど愛しいもんです」
「・・そういうものか」
敵味方双方が固唾を呑んで見守る中、月絵は金治の姿を見つめて滂沱の涙を抑えることができなかった。
「パパ・・パパっ!」
こんな遠い山の中へまで、馬鹿な娘を救いに来てくれた金治の想いが心に沁みた。
ましてや実の娘ではない。
天涯孤独の月絵を命がけで守ってくれる金治に、そして血のつながらぬ兄の憲治に、肉親を超える愛情に包まれている喜びを全身に感じていた。
つづく…
theme : 官能小説・エロノベル
genre : アダルト