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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(十五)

『人外境の花嫁』 

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八.山奥の探索者 (十五)

本部道場の建物に入ると、そこは三階まで吹き抜けの広いエントランスだった。

正面を向いて、左右に石造りの幅広い階段が、壁に沿って二階と三階へ通じている。

聖堂を模したアーチ構造の窓から、南天の眩しい太陽が煌々と射し込んで来る。

だがどこにも人の姿はない。

白い壁に囲まれた空間の明るさと物音一つしない静寂が、却って月絵に白昼夢のような幻想感を覚えさせる。

月絵は小さく呟いた。

「誰もいない・・歓喜天浴油祈祷で幹部全員が集まっているはずなのに」

「若いわりに耳年増な女だね。幹部は夜の儀式に備えて、各々身を清めて個室での瞑想に入られているのさ」

「それなら・・麻美さんの後継儀式は今夜行われるんですね。乱裁道宗に会わせて。あ、痛いっ!」

菜穂は、後ろ手に戒められた月絵の腕を捩じり上げた。

「軽々しく教祖様の名前を口にするんじゃないよ。あんた達は余計なことを知り過ぎているようだね」

菜穂が目配せすると、子猿はジャケットから時計のような器具を取り出した。

「もう逃げられないぞ」

歯を剥き出して笑いながら、子猿はそれを月絵と畠山の左腕につけた。

「それは鍵がないと外せないGPSよ。あんた達がここから逃げ出しても、電波を頼りに山中で射殺できるんだからね」

世話を焼かせるんじゃないよと、菜穂は腹いせに畠山の尻を蹴飛ばした。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(十四)

『人外境の花嫁』 

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八.山奥の探索者 (十四)

尋常な集団ではない。

もし降矢木の名前を出せば、本気で殺しに行きかねないと月絵は恐れた。

(先生、ごめんなさい)

月絵は悪戯をして叱られた子供のような心境になった。

意地になって降矢木の制止を無視し、箕面谷へ来たのは月絵の自業自得である。

しかも畠山を巻き添えにし、降矢木にまで危険が及ぶとなれば、我が身を犠牲にしてでも防がなければならない。

月絵は菜穂に答えた。

「麻美さんを天神会が誘拐したと推理したのは私です。畠山さんは何も関係ありません。畠山さんだけでも、ここから帰してあげてくれませんか?」

畠山はぶるぶると顔を横に振った。

「月絵ちゃん、理由はどうあれ、君だけをここに残すわけには男としてできないよ」

「畠山さん・・」

「君の・・想いはわかっているつもりだ。そのためにも、僕はどんなことがあっても君を守らなければならない」

畠山は子猿に尻を蹴飛ばされながらも、真剣な表情で月絵に訴えた。

菜穂はふんと鼻で笑った。

「おやおや、心に沁み入る人情噺がこんなところで聞けるとはねえ。でも落語はここまでさ。あんた達二人はもちろん、他にも天神会を脅かすような人間がいるのなら、今すぐにでもこの世から抹殺してやるからさ」

「・・・・」

「ふふ、すぐに話したくなるさ。洗脳って言葉を知っているかしら。天神会では体覚醒と言うんだけど、この道場へ足を踏み入れて、
天神会に服従しなかった人間はいないのさ」

不気味に笑う菜穂に、月絵はぞっと背筋が冷たくなった。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(十三)

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八.山奥の探索者  (十三)

天神会本部道場の門を潜ると、神社の参道を想わせる長い石畳が続き、正面に八角形の形をした建物の玄関が見えた。

後ろ手に手錠を掛けられた月絵と畠山は、菜穂と子猿にせっつかれながら歩いた。

「麻美さんはどこにいるの?」

「ふふ、あんたには関係ないことさ。他人のことより自分の心配をした方がいいと思うけど」

「私達をどうするつもりなんですか?」

「わからないわね・・でも生きてここから出られる可能性は、限りなくゼロに近いかもしれないねえ」

凄んだ菜穂の台詞に、畠山の表情が青く強張った。

「殺すってこと・・ですか?」

「さあね。あんた達の心掛け次第だね。まずは横浜でさらわれた女性を捜して、天神会の本部道場まで来られた理由を聞かせてもらわないとね」

怖気ずいた畠山が、早速菜穂のご機嫌を取ろうとした。

「そ、それはですね」

「畠山さんっ!」

慌てて月絵は言葉を遮り、軽率男の顔を思い切り睨みつけた。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(十二)

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八.山奥の探索者  (十二)

月絵は菜穂とその主人を慌てて捜した。

「長旅御苦労様だったわね」

あろうことか、菜穂とその猿面の主人は若者達の輪の中心にいた。

「ど、どうして、菜穂さん」

怯えた表情で月絵が尋ねると、菜穂はさも愉快そうに大きな笑い声をあげた。

「全くお気楽で呑気なお嬢様だね。この子猿とあたしは天神会の幹部さ。あんた達が箕面谷へ行くと聞いて、温泉宿で待ち伏せしていたんだよ」

「ま、待ち伏せ・・嘘よ、あの翠風楼で初めて会ったはずでしょう?」

動揺する月絵を菜穂は嘲笑った。

「あんた達、人吉に着いた時、警察署で箕面谷への生き方を確認していたわよね?」

「・・まさか、警察署が?」

「天神会を訪れようとするよそ者は全員チェックされているのさ。鉄道の売店、高速道路のサービスエリア、レンタカーの店員からバスの運転手に至るまで、人吉での行動はすべて監視されているってことさ」

天神会の組織は、全国の各都市に情報網を構築していると言う。

特にお膝元の人吉市では、警察や消防などの行政機関にも信者を潜り込ませているらしい。

月絵はあっと声を漏らした。

警察にまで浸透する天神会の組織力に、月絵はただ唖然とするしかなかった。

菜穂が手を上げた。

「雑誌の取材ぐらいなら許してあげたけど、横浜でさらわれた女性を取り返しに来たとなると、このまま帰すわけにはいかないわね」

すると若者達の輪が狭まり、車酔いの畠山はいとも簡単に捕らえられてしまった。

「あ、厭っ!」

そして月絵には、子猿と呼ばれる猿面の男が背後から抱きついて来た。

物凄い力である。

空手初段の月絵でも身動きできない。

「クックッ、これは思った通りの上玉だ。たっぷりと俺のチンポで仕込んでやるからな」

男はニヤッと笑うと、じゅるっと唾を呑み込んで舌舐めずりした。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(十一)

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八.山奥の探索者  (十一)

得体の知れぬ不安が月絵を覆った。

「天神会は凶暴な一面を隠している可能性がある」

横浜で降矢木が語った言葉が、今この巨大な要塞を前にして、急に現実味を帯びて月絵に襲いかかってきた。

もしここで天神会が牙を剥けば、歩いて逃げることはもちろん、助けを求める人すら見当たらないのだ。

その時、不意に天神会の正門が開いた。

するとその頑丈な城門から、一人また一人と、作務衣を着た男達がぞろぞろこちらへ向かってくる。

山奥に似つかわしくない若い男達だった。

皆二十代ぐらいだろうか、茶髪やロン毛の若者達で、渋谷駅前の交差点と錯覚するような光景である。

「おや、盛大なお迎えだな」

呑気に手を振る畠山のシャツを月絵が引っ張った。

月絵は若者達の態度に尋常ならざるものを感じた。

目線が定まらす、口を半開きにしてへらへら笑っている。

じっと立っていることができず、落ち着きなく無意味に手足を動かしている。

「畠山さん、ちょっと変よ。ここから逃げましょう」

「何を言っているの、月絵ちゃん。やっとここまで来たのに・・えっ」

さすがに鈍感な畠山も、若者達が持つ木刀や鉄パイプに気づいて口を噤んだ。

だがすでに月絵と畠山は、二十人ほどの若者に取り囲まれていた。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(十)

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八.山奥の探索者  (十)

月絵は驚いた。

そこは、険しい山々に囲まれた、およそ野球場ほどの広さがある盆地だった。

正面に頑丈そうな鋼の黒門が威圧し、高さ二メートルはある石塀が延々と取り囲んでいる。

その中央には、日本武道館を小ぶりにしたような、八角形の外観を持つ三階建ての施設が鎮座していた。

天神会本部道場。

山中の隠れ里に関する伝承は数あるが、人煙から隔絶した深山の近代建築に、月絵はいささか狂気にも似た違和感を覚えた。

「すげえな・・」

車が降りた畠山が建物を見て絶句した。

驚くのは天神会の資金財力だけではない。

何故天神会は辺鄙な箕面谷を本部道場として選んだのか。

エルサレムがそうであるように、乱裁道宗こと足立寛三が、ここでサンカに加わった聖地という意味もあろう。

そして道場と名乗るからには、俗世から離れている方が相応しいからかもしれない。

確かに高野山金剛峰寺にしても比叡山延暦寺にしても、当時は人界から遠い山岳に築かれた。

宗教的な修行の場は、俗世から隔離されていなければならなかったのだろう。

だが月絵は素直に頷けなかった。

(でもここは・・違った意味で人を拒んでいるみたい)

天神会は貧民救済の宗教だと聞く。ならば市井にこそ修行の場があるはずで、人も通わぬ深山幽谷に道場を造る方がおかしい。

しかも何かから身を守るかのように、銃撃戦にも堪え得る重厚なコンクリートと、蟻も入れぬ高い城壁が備わっているのだ。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(九)

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八.山奥の探索者 (九)

さらに林道を走ると、山と山に挟まれた谷戸に小さな集落が現れた。

だが住人の姿はない。

谷を登る道沿いに、人の住まない朽ち果てた廃屋が並んでいる。

背の高い雑草が生い茂り、かつての村は森の浸食に呑み込まれつつあった。

菜穂が振り向いた。

「ここが箕面谷よ」

「・・誰も住んでいないみたいですね。廃村ですか?」

「ええ、この辺りは昔からあった集落なんだけど、今は過疎化と高齢化で誰も住んでいないわ」

「では天神会はどこに?」

「ほら、道を上がったところに神社があるでしょう。あの脇を通って、車で十分ほど上がった山の中よ」

菜穂が指差した前方に、古めかしい神社が立っている。

小高い山を背にして、迫り出して来る森林に覆われかけていた。

「昔は秋祭りになると、夜店が出て賑やかだったらしいわ。何でも西山という香具師が肩入れしていたらしいの」

おそらく足立寛三と川嶋剛志は、養父金治が言っていた通り、ここでミソソクリの少女と出会ったのだろう。

不意に若い香具師だった頃の金治の姿を月絵は想い浮かべた。

香具師もサンカも漂泊の民である。

今でこそ親分と周囲から頼られる存在となったが、当時はねぐらにも事欠く苦労をしていたに違いない。

(ごめんなさい)

箕面谷へ行くと月絵が告げると、金治は降矢木が言うように危険だと反対した。

だが不誠実な降矢木に腹を立てていた月絵は、金治に内緒のまま家を飛び出して来たのだった。

神社を越えてさらに山へ分け入ると、急に視界が開けて、巨大なコンクリート造りの建物が出現した。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(八)

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八.山奥の探索者 (八)

車は球磨川を離れて、深い山塊へと分け入って行く。

崖っぷちの林道を縫うように走る頃には、すっかり人家も絶え、樹海と呼ぶに相応しい無辺の森林が広がっている。

菜穂が月絵と畠山を気遣う。

「この山を越えれば箕面谷よ」

「うぷっ、すごい山道ですね」

昨夜からの二日酔いと車酔いで、青い顔をした畠山はすでにグロッキーに見えた。

月絵は空のレジ袋を畠山に渡しながら、何気なく菜穂に訊ねた。

「箕面谷にある宗教法人って、この辺りでも有名なんですか?」

「ええ、大きな建物だから・・でもわざわざこんな山奥まで来るなんて、よほど大事な取材があるのね」

「本当は人を捜しているんです」

「よくある話ね。家族の反対を押し切って、誰かが入信しちゃったとか?」

「いえ、横浜に住む知り合いの女性が、連れさらわれてしまったんです。きっと天神会が関係していると思って・・」

そこまで話した月絵は、背筋がぞっと冷たくなるのを感じた。

ルームミラーへ目を遣った。

ほんの一瞬だが、鏡を通して菜穂の夫と目が合った。

まるで執念深い蛇のような眼で月絵を見ていたのだ。

夫はすぐに目を逸らしたが、その邪悪な表情に月絵は生理的な嫌悪を覚えた。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(七)

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八.山奥の探索者 (七)

月絵と畠山を乗せた小山夫婦の車は、人吉市街から球磨川に沿って山奥へ向かった。

流域に広がるのどかな田園風景は、次第に南北の山並みが押し迫り、その風景は山里へと変わっていく。

助手席の菜穂が振り向いた。

「ここから北の山道へ入ると、子守唄で有名な五木村よ」

月絵は左手にそびえる山群を眺めて、どこか切ない節回しを思い返した。

おどまかんじん かんじん

あん衆たちゃ よか衆

よか衆ゃ良か帯 よか着物

自殺した実母が唄ってくれたのか、育ての母が唄ってくれたのか、この民謡は幼い頃から月絵の耳に残っていた。

昔、降矢木に五木の子守唄の話をしたことがあった。

「月絵君、かんじんとはどういう意味か知っているかな?」

「かんじん・・済みません、意味がわからず無意識に唄っていました」

「かんじんは勧進と書く。九州では乞食という意味だ。おどまは私と言う意味だから、私は貧しい女だと自虐的に唄っているのだよ」

降矢木はそう言うと、五木の子守唄について語り始めた。

五木村に限らず、球磨地方の貧しい山村では、口減らしに娘を奉公に出さなければならなかった。

子守女になったまだ年端もいかぬ娘達が、裕福な家の赤子をあやしながら、我が身の不幸を愚痴にした怨み節だと言う。

人の子守は 

哀れなもんよ

どこで死んでん 墓もなか

降矢木が唄ってくれた五木の子守唄の一節を思い出して、窓の外の景色が滲んでいくのを月絵は感じた。

つづく…

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『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(六)

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八.山奥の探索者 (六)

畠山も月絵もペーパードライバーで、運転には自信がなかった。

「本当にいいんですか?」

「構わないわよ、箕面谷は通り道だから。帰りも近くの駅まで送ってあげるわ」

女はにっこり笑って、のぼせちゃうわよと月絵を洗い場へ誘った。

体を洗いながら会話が弾む。

女の名は小山菜穂。

生まれは福岡だが、結婚して球磨地方の農家に嫁いだと言う。

(それで鍛えられた体をしているのか)

隣で体を洗う菜穂を見て、月絵は自然と納得した。

腹筋が薄らと覗くその下腹部は、まるでボディビルダーのように思えた。

菜穂と明朝九時にロビーで待ち合わせすることを約束した月絵は、風呂から上がってぽつんと一つ布団が敷かれた和室に戻った。

窓の外に球磨川が流れている。

(・・先生)

急に涙が溢れてきた。

月絵が妹のような存在であった昔なら、降矢木は心配して一緒に来てくれただろう。

恋心を抱いたことが、却って降矢木を怒らせてしまったのかもしれない、

(・・でも仕方ないじゃない・・先生)

月絵は夜が更けるまで、ぼんやりと球磨川を眺めていた。

翌朝。

二日酔いの畠山を叩き起こした月絵は、旅館の精算を済ませて菜穂を捜した。

「月絵さん。今、主人が駐車場から車を出しに行っているから」

「ご親切に有難うございます」

月絵と畠山が菜穂に頭を下げると、旅館の玄関が開いて男が入って来た。

「主人が来ました」

菜穂が主人と呼んだ男は、猿そっくりの顔をしていた。

つづく…

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プロフィール

紅殻格子 

Author:紅殻格子 
紅殻格子は、別名で雑誌等に官能小説を発表する作家です。

表のメディアで満たせない性の妄想を描くためブログ開設

繊細な人間描写で綴る芳醇な官能世界をご堪能ください。

ご挨拶
「妄想の座敷牢に」お越しくださいまして ありがとうございます。 ブログ内は性的描写が多く 含まれております。 不快と思われる方、 18歳未満の方の閲覧は お断りさせていただきます。               
児童文学 『プリン』
  
『プリン』を読む
臆病で甘えん坊だった仔馬は、サラブレッドの頂点を目指す名馬へと成長する。
『プリン』
だが彼が探し求めていたものは、 競走馬の名誉でも栄光でもなかった。ちまちました素人ファンタジーが横行する日本の童話界へ、椋鳩十を愛する官能作家が、骨太のストーリーを引っ提げて殴り込みをかける。
日本動物児童文学賞・環境大臣賞を受賞。
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