『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(七)
『人外境の花嫁』
FC2 Blog Ranking
八.山奥の探索者 (七)
月絵と畠山を乗せた小山夫婦の車は、人吉市街から球磨川に沿って山奥へ向かった。
流域に広がるのどかな田園風景は、次第に南北の山並みが押し迫り、その風景は山里へと変わっていく。
助手席の菜穂が振り向いた。
「ここから北の山道へ入ると、子守唄で有名な五木村よ」
月絵は左手にそびえる山群を眺めて、どこか切ない節回しを思い返した。
おどまかんじん かんじん
あん衆たちゃ よか衆
よか衆ゃ良か帯 よか着物
自殺した実母が唄ってくれたのか、育ての母が唄ってくれたのか、この民謡は幼い頃から月絵の耳に残っていた。
昔、降矢木に五木の子守唄の話をしたことがあった。
「月絵君、かんじんとはどういう意味か知っているかな?」
「かんじん・・済みません、意味がわからず無意識に唄っていました」
「かんじんは勧進と書く。九州では乞食という意味だ。おどまは私と言う意味だから、私は貧しい女だと自虐的に唄っているのだよ」
降矢木はそう言うと、五木の子守唄について語り始めた。
五木村に限らず、球磨地方の貧しい山村では、口減らしに娘を奉公に出さなければならなかった。
子守女になったまだ年端もいかぬ娘達が、裕福な家の赤子をあやしながら、我が身の不幸を愚痴にした怨み節だと言う。
人の子守は
哀れなもんよ
どこで死んでん 墓もなか
降矢木が唄ってくれた五木の子守唄の一節を思い出して、窓の外の景色が滲んでいくのを月絵は感じた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
にほんブログ村
人気ブログランキング~愛と性~
紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
FC2 Blog Ranking
八.山奥の探索者 (七)
月絵と畠山を乗せた小山夫婦の車は、人吉市街から球磨川に沿って山奥へ向かった。
流域に広がるのどかな田園風景は、次第に南北の山並みが押し迫り、その風景は山里へと変わっていく。
助手席の菜穂が振り向いた。
「ここから北の山道へ入ると、子守唄で有名な五木村よ」
月絵は左手にそびえる山群を眺めて、どこか切ない節回しを思い返した。
おどまかんじん かんじん
あん衆たちゃ よか衆
よか衆ゃ良か帯 よか着物
自殺した実母が唄ってくれたのか、育ての母が唄ってくれたのか、この民謡は幼い頃から月絵の耳に残っていた。
昔、降矢木に五木の子守唄の話をしたことがあった。
「月絵君、かんじんとはどういう意味か知っているかな?」
「かんじん・・済みません、意味がわからず無意識に唄っていました」
「かんじんは勧進と書く。九州では乞食という意味だ。おどまは私と言う意味だから、私は貧しい女だと自虐的に唄っているのだよ」
降矢木はそう言うと、五木の子守唄について語り始めた。
五木村に限らず、球磨地方の貧しい山村では、口減らしに娘を奉公に出さなければならなかった。
子守女になったまだ年端もいかぬ娘達が、裕福な家の赤子をあやしながら、我が身の不幸を愚痴にした怨み節だと言う。
人の子守は
哀れなもんよ
どこで死んでん 墓もなか
降矢木が唄ってくれた五木の子守唄の一節を思い出して、窓の外の景色が滲んでいくのを月絵は感じた。
つづく…
皆様から頂くが小説を書く原動力です
にほんブログ村
人気ブログランキング~愛と性~
紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。