『人外境の花嫁』八.山奥の探索者(十五)
『人外境の花嫁』
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八.山奥の探索者 (十五)
本部道場の建物に入ると、そこは三階まで吹き抜けの広いエントランスだった。
正面を向いて、左右に石造りの幅広い階段が、壁に沿って二階と三階へ通じている。
聖堂を模したアーチ構造の窓から、南天の眩しい太陽が煌々と射し込んで来る。
だがどこにも人の姿はない。
白い壁に囲まれた空間の明るさと物音一つしない静寂が、却って月絵に白昼夢のような幻想感を覚えさせる。
月絵は小さく呟いた。
「誰もいない・・歓喜天浴油祈祷で幹部全員が集まっているはずなのに」
「若いわりに耳年増な女だね。幹部は夜の儀式に備えて、各々身を清めて個室での瞑想に入られているのさ」
「それなら・・麻美さんの後継儀式は今夜行われるんですね。乱裁道宗に会わせて。あ、痛いっ!」
菜穂は、後ろ手に戒められた月絵の腕を捩じり上げた。
「軽々しく教祖様の名前を口にするんじゃないよ。あんた達は余計なことを知り過ぎているようだね」
菜穂が目配せすると、子猿はジャケットから時計のような器具を取り出した。
「もう逃げられないぞ」
歯を剥き出して笑いながら、子猿はそれを月絵と畠山の左腕につけた。
「それは鍵がないと外せないGPSよ。あんた達がここから逃げ出しても、電波を頼りに山中で射殺できるんだからね」
世話を焼かせるんじゃないよと、菜穂は腹いせに畠山の尻を蹴飛ばした。
つづく…
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紅殻格子の日記は「黄昏時、西の紅色空に浮かぶ三日月」に記載しています。
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だがどこにも人の姿はない。
白い壁に囲まれた空間の明るさと物音一つしない静寂が、却って月絵に白昼夢のような幻想感を覚えさせる。
月絵は小さく呟いた。
「誰もいない・・歓喜天浴油祈祷で幹部全員が集まっているはずなのに」
「若いわりに耳年増な女だね。幹部は夜の儀式に備えて、各々身を清めて個室での瞑想に入られているのさ」
「それなら・・麻美さんの後継儀式は今夜行われるんですね。乱裁道宗に会わせて。あ、痛いっ!」
菜穂は、後ろ手に戒められた月絵の腕を捩じり上げた。
「軽々しく教祖様の名前を口にするんじゃないよ。あんた達は余計なことを知り過ぎているようだね」
菜穂が目配せすると、子猿はジャケットから時計のような器具を取り出した。
「もう逃げられないぞ」
歯を剥き出して笑いながら、子猿はそれを月絵と畠山の左腕につけた。
「それは鍵がないと外せないGPSよ。あんた達がここから逃げ出しても、電波を頼りに山中で射殺できるんだからね」
世話を焼かせるんじゃないよと、菜穂は腹いせに畠山の尻を蹴飛ばした。
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